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宿の使い方について簡単な説明をして、二宮は東京へ帰って行った。




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遠ざかる車は、古い民家の影に、すぐに見えなくなった。


大野は、置いて行かれた気分になった。


『旅館の人、優しそうだったよ。ちょっと歩けば海もあるんだって。釣りは…できんのかな?聞いてないけど。まあ見るだけでも、綺麗だと思うよ』


二宮に言われたことを、頭の中で思い出していた。


『良いところだね、城崎。…まあ、外に出るときは、面倒じゃなかったら、顔くらいは隠しなさいよ……』


行ってしまったことが惜しかった。

城崎でも、ずっと隣に居てくれるものだと思い込んでいた。

二宮が居なければ、大野は、自分が何をすれば良いのか分からなかった。


『何しても良いよ。何もしなくても』


それを見越したようにそう言っていた二宮。


急に、自由になってしまった。


東京で仕事をしていたときも、こんなふうに急に、1日だけ休みが取れることが、まれにあったが

大野はそんなとき、自分がどう過ごしていたのか、思い出せなかった。



どうしよう、と大野は思う。



俯いたら、地面がしっとりと濡れていた。



『……雨が降ってたんだろうね?』



ほんとだ、雨が降ってたのかも。

すきん、と優しいみどりの香りも、とうとうと潤った空気も、通り過ぎた雨が忘れて行ったもののように思えた。


大野は、その空気が乾いてしまわないうちに、なるべく多く、肺に詰め込もうとした。




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「大野様?」




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突然ではあったが、柔らかな自然の声だったので、驚かずに顔を上げることができた。


その男は、ゆるりと清潔な、仲居の着物を身につけていた。


「お部屋のご準備ができています。…外は冷えますから、中へご案内しても?」


この宿の仲居の制服は、深い緑色であるらしかった。
大野はそれを、心地よく思った。雨に濡れた葉の色。


「…、きれいでしょう。紫陽花です。梅雨にしか花はないけど、丁寧に植えてれば、葉っぱでも、雨の似合うのが着きます。気に入りました?」


ちょっとだけ砕けた丁寧語になって、仲居はニコリと、温度のある笑顔を見せた。

大野は、そんなふうに笑いかけられたことを嬉しく思った。


声は依然として出ないので、こくんと軽く頷いてみせると、仲居は目元を優しく、微笑んで


「行きましょうか」


と、中へ促した。


二宮が居なくなっても、自分の前に立って歩いてくれる人がいることに、大野はいくらか安心した。




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柔→←言



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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時

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