快 ページ20
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『離れのお客様は筆談だし、お食事の説明も要らないから』
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朝。
涼しげに晴れた空が、未だ風の温度を上げられないでいた。
櫻井は、カラカラと下駄の音を鳴らしながら、本館から離れに向かう庭を歩いていた。
相葉から、お客の見えるところであまりうるさく動いてはいけないと言われていたのだが、櫻井は、石畳の上を下駄で歩くと、木と石が当たってカランという音が鳴るということを、たびたび忘れてしまうのだ。
『和室入って右の、箱の上に並べるだけで良いよ。下げに行くのは2時間後ね』
食事をそっと置いて、下げるだけの仕事。
簡単だからと、相葉に頼まれたのであるが、
しかし櫻井は、ただそれだけの仕事でも、それだけで済ませることができない性分であった。
(よく眠れただろうか…)
昨晩は、大野が寝苦しくならないようにと、暖房を切って部屋を出たのだが、ずいぶん外の温度が冷えていた。
寒さで起きるようなことがなかったか心配になる。
食べられなかった夕食の前で、2時間ずっと動けなかった大野のこと、
彼は寒いと思ったときに、自分でベッドを降りてエアコンのリモコンを探し、開いている窓を閉め、暖房をつけることができるかどうか……
それに、この宿の離れは、夜が冷えると、しんと寂しくて物哀しいような感じがするので、気持ちが落ち込んだりしなかっただろうか、とも思う。
なんにせよ、体力も気力も、十分どころか五分もないだろうから、起きていたら温かい茶でも淹れて差し上げよう…と、とくに必要のない世話を、櫻井は計画立てた。
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部屋の前に立ち、3回扉を叩く。
来たことを知らせるだけの、淡泊なノックである。
櫻井が部屋に入ると、大野は掛け布団を頭まで被って眠っていたのだが
朝食を置くべき場所に置いて、ふっと顔を上げると、いつの間にか、布団からポンと顔だけ出して、こちらを伺っていた。
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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
律(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時