どうしようもないこの感情 。 ページ4
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「____そか。」
Aの笑みはほんの一瞬だった。けれどその一瞬を折口の目はしっかりと捉えており。
柔らかく笑ったAを見た折口は、少しだけ目を見開いて、困ったように眉を下げた。
「........良かったな、」
『?.....何か云った?』
「何でもあらへんよ。」
折口は、少しだけ口角を上げて、自身の首に提げられている黒い手帳に触れた。
異能の本体とも云えるその手帳は、捕まった当初は太宰によって管理されていたが、一ヶ月も経てば折口へと返された。
妙な真似を起こさない、と云う条件付きで。
折口は、牢の格子から手を伸ばしてAの長い蜂蜜色の髪を一房掬う。
「____A。自分の進む道を決めるのは、自分自身や。
まだこの意味がわからなくとも、いつかこれが自分の道だと胸を張って云えるようになるのをボクは祈ってる。」
『....なに、急に。気持ち悪いよ、おにーさん。』
「はは、そろそろ名前で呼んでくれへんかなぁ、ボク悲しくなってくるわ。」
訝しげに折口を見上げるが、その折口の表情に思わずAは目を見開いた。
ーーー優しげな、表情だった。
いつもの飄々とした笑みではなく。柔らかく目を細める、兄のような表情で。
そう云えば、彼は何故こんなにも自分を気にかけるのだろうかと疑問になった事があった。
彼処で会ったのが初対面。恐らく異能を使って、Aに関する情報を得たのだろうが、何故わざわざAの事を?
それはずっと謎だった。でもそれには踏み込めないような気がして。
Aはただ、折口に撫でられる自身の髪を見ながら、小さな声で呟いた。
『....折口、さん。』
「上出来や。」
にっこり笑った折口を見上げた瞬間、聞き慣れた声が鼓膜を震わした。
「やぁ、良い雰囲気の所悪いんだけれど____」
思わず後ろを振り向くと、太宰がいつにもまして真剣な表情でAを手招きした。
「A、ちょっと君に会わせたい人が居てね。
信夫、彼女を借りても良いかな?」
「どーぞ、太宰クン。抑も、彼女はボクのもんじゃないしな。」
戯けたように肩をすくめる折口を見た後、太宰は肩にかけた黒い外套を翻して、階段を上っていく。
いつもとは違うその様子に違和感を覚えたが、太宰の命令に逆らえるほど自分の地位は高くない。
そのまま黙って立ち上がると、太宰の後を追って階段を上って行った。
折口は、ただ黙って笑っているだけだった。
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これ終わったら誰かと合作したいな。
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y(プロフ) - まだ、見てます。こんなに端麗な日本語で綴られた物語を書ける方、中々いないです。最高の作品です。どうか、いつか続きが読めることを願っています (2月26日 19時) (レス) @page38 id: 02477a501f (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - 何周も見てるけどやっぱ飽きないし面白いです!!更新待ってます!!!!!() (2022年11月15日 14時) (レス) id: 345a1df315 (このIDを非表示/違反報告)
おみず - お、おわり……??続きがまた見たいです……この先でも活躍するんだろう夢主ちゃん見たいです……!!! (2022年11月10日 23時) (レス) @page38 id: 0c3a3b3097 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫ニサナ - 更新待ってます!! (2022年3月14日 22時) (レス) @page38 id: 1c42f0d3fc (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - え、待ってめっちゃ好き。続き気になる…!更新待ってます、頑張ってください!! (2022年2月1日 17時) (レス) @page38 id: b5b9f86a00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪原 ゆずき | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php
作成日時:2016年8月4日 13時