LOVE ME LOVE ME

▽ ページ24

・

店に戻るとバックヤードに駆け込んで、食後のオーラルケアは接客業の基本。

サンローランのティントを塗り直したら
デニムのシャツワンピは襟元まで正したけど




｢どうしようAちゃん。
黒がいいかな？それとも白かな？｣

｢そうですね〜。どっちでしょ〜ね〜。｣




う〜んと悩むジュンギさんの両手には
さっき検品が済んだばかりの新作アイテム。

休憩中にミノがディスプレイしたみたい。

レディースのキャップが、交互に上下してる。



そう、レディース。

レディースとはつまり女性用。


いくらジュンギさんの頭が小さいと言えど

いくら今日のジュンギさんが
カジュアルなパーカー姿でご来店と言えど

その帽子がシンプルなデザインと言えど




｢まだ若いからちょっとワガママなんだけど、とにかく可愛い子で、いくらでも貢ぎたくなるんだよ。｣

｢あは、あはは...｣




それがプレゼントなのは
裏から戻ってすぐ1番に聞いたし

貢いでも惜しくないほど とにかく可愛い子なのは

デレデレしてても素敵なジュンギさんが
たった今、聞いてもないのに教えてくれた。


彼女、かな...

例え彼女じゃなくても
彼がその子へ愛を注いでるのは丸わかり。



せっかくジヌちゃんが溶かしてくれたのに
また暗く沈んで、雲行きも怪しくなってきて

なんならさっきより
重たい気分に拍車が掛かったかもしれない。

恋の成就フラグ、立ってなかった？

私ひとりが浮かれてただけ？




｢こういう色は？全体のアクセントになって可愛いですし、春は淡い色が流行色なんですよ。｣

｢なるほどね！さすが店員さん！｣




それでも真面目に選んじゃう自分を
変なところでユンと似てるんだよなーなんて。

ただでさえ人相の悪いミノは
今日も真顔で、じろーっと視線を刺してる。

フィッティングの前に立ち
スナイパーのごとく、鏡越しで観察中。


他人事のように流してるけど
内心は、軽くショックを受けてるの。

けど職業柄、笑顔を作るのは得意なんだ。


ミノだって自分で接客してたら
あんなゴルゴみたいな顔、絶対してない。

スイス銀行に入金して
プレゼントの相手、狙ってもらおうかしら。



なんて、笑顔の裏で不貞腐れたのに




｢これはAちゃんに。うちの姪とお揃いね。｣

｢え？め、姪っ子さん？｣




色違いでお買い上げした、ピンクともうひとつ。

似合いそうだから、と渡されたのは黒だけど

沈没寸前だった私の気分は
ジュンギさんのせいで、すっかり桜色だ。

▽→←▽

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す