あ 第八幕(後)〈勝利か敗北か〉 ページ37
煌びやかなパーティーの中、一組の男女が会場に踏み込んだ。
男は黒く艶のある髪を後ろに撫で付けた、見るからに"軍人"風の男で、奥様方の色目を全身に浴びて、堂々と歩き出す。
対する相方は美しい黒髪を結い上げ、ベージュのドレスを見事に着こなし、すんっと前を向いた横顔はどこぞの貴族を想像させるほど凛としている。
とは言っても最近まで"箱入り"だったのだろう。
慣れない靴に神経を研ぎ澄ませながら歩くその姿は、いささか滑稽にも見えたが、男の庇護を唆るほど愛らしい。
この二人は、最近満州から帰ったばかりで将来は高級将校の座を約束されている『芝 秋人』と
その婚約者で、千年の長い歴史と仕来りを持つ由緒正しい華族の末子『一条春華』である。
二人は普段見慣れない異様な光景に戸惑いながらも、近寄って来たボーイからシャンパンを受け取って、人の輪に混じる。
たちまち若い二人は囲まれて、形ばかりの挨拶から、軽い世間話まで、会話は弾む。
さらには婚約の話になれば、初々しく頰を真っ赤に染める二人に人々は集まった。
「芝くんとか言ったかな。
君、よくぞ満州から無事に帰ってきてくれた。
今後は我らが皇軍の手本となり戦地での功績、期待しているぞ。」
「はっ、誠に有難き幸せ、倉橋閣下の御期待に添えるよう尽力を尽くす次第であります!」
「はははっ!!」
太った体を揺らし、上がりたての若将官の言葉にいい気分になる倉橋将官。
そんな恋人をチラチラッと気にかけているお嬢様の元に、一人の女が近づいた。
「まあまあまあ、なんて可愛いらしいお嬢さんなの?!」
いきなり人の波が割け、お嬢の元に真っ直ぐと道が伸びる。
甲高い叫び声にも似た感嘆を上げ、スリムとは言いがたい巨体を揺らして近づいて来るのは、今回のイベントパーティーの主催者、鋼屋将官の夫人、鋼屋萌美。
「あの鋼屋様、今夜はお招き頂き「んもう!堅苦しいことはいいのいいの!」
箱入りお嬢の挨拶を遮り、勢いのまま近寄った夫人はお嬢の手をギュウウっと握りしめ、傍に引き寄せた。
「今日は恋人のお披露目なんでしょう?
まあ本当になんて可愛らしいのかしら。
芝さん、貴方も幸せでしょう?
こんっな愛らしい女性を伴侶に迎えられるんだもの。」
ねえっと念押しする様な口ぶりの夫人に圧倒されたように芝はコクコクと真っ赤な顔で頷く。
瞬間パアッと明るくなった夫人は気分を良くして、二人を我が子のように思い、連れ回した。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時