て イタチごっこ ページ36
徐に時計を見れば、もう一時間が経過している。
遠目から見たAは、悩みながらも服を丁寧に選んでいる。
最終的に二つのうちの一つを迷ったAは、暇そうに佇んでいる小田切に、
どっちがいいですか?と声をかけた。
一つは明るめのライトグレーで、
胸に鮮やかな白い花のコサージュが咲き、
上下で分かれているもの、
もう一つはベージュのロングドレスで、前者のドレスより飾りっ気のないシンプルな型のドレス、
しばし悩んだ小田切は、肌に馴染む色のベージュを選んだ。
するとAは微笑んで、
「よかった、私もこっちかなって思ってましたから。」
と言うだけ言って立ち去ってしまう。
見事に虚を突かれた小田切は、立ち去ったAを、見送っていた。
買い物を終えた二人は、早速作戦会議をする。
今回の問題点は"敵の正体が分かっていない"と言うことだ。
手掛かりは上級将校の証言のみ、それでもあらゆる可能性を考慮するとやはり今度のパーティーで炙りださなければ、二度とその影は掴めない。
[そもそも何故そのスパイ男はパーティー会場に来るんです?]
[目的、と言う方向から攻めるんだな。
その辺は昼間調べて来た。
どうやらそのパーティーにさっき言った上級将校の奥方がいるらしい。
恐らく、夫は無理と判断して妻に擦り寄るつもりかと俺は踏んでる。]
[根拠を聞いても?]
[ああ、その奥方は夫に言いつけられて基本的に外出は控えてるんだが、元々奥方自身の交友関係が広いらしい、つまり、]
[分かったわ、夫の方に正体が漏れていないのをいい事に今度はその妻に接触する気なのね。]
[ああ、妻を手玉に取り、鼠算式にどんどんスパイ網を広げる。
追われているのにしたかなスパイだ。]
[褒めるのは結構だけど、いたちごっこは勘弁よ。]
苦々しげに言うAは、珈琲をすすりながら、靴音のモールス音を止める。
小田切も思案している様で、二人の間には沈黙が降りた。
「(陸軍の上級将校、素姓の知れないスパイ、そしてドイツの有権者。)」
Aは頭の中でこれまでの情報をめまぐるしく計算し、辿っていた。
見えない敵の思考回路を。
するとふと小田切の声が重なった気がした。
したたかなスパイ…ああ、そうか…
Aの頭で全てが一直線に繋がった。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時