お 閑話〈自白剤の後〉 ページ28
「(全く、とんだ災難だったわ。)」
深夜、Aは一人残業をしていた。
別に苦ではないが、それでも一人だけ残業というのはプライドが許さない。
ガチャンと荒っぽく食器を片付けをして行く傍ら、Aはふと、自白剤を飲まされた時の自分を想像してゾッとした。
「(何、話しちゃったのかしら。)」
よくよく考えれば不味いのでは、そう悩み始めると、手が止まる。
「たいしたことは何も話していませんよ。」
まるで心を読んだようなセリフ。
内心、背後を疎かにしていたことを後悔したA。
振り返れば、いい笑顔の三好が佇んでいる。
一体なんの用なのか、警戒を露わにするAにやれやれと肩をすくめた三好は、Aよりも僅かに離れた場所に佇み徐に煙草を取り出した。
「吸うなら他所で吸ってください、ここ掃除したばっかりですから。」
「一服どうです?」
人の話を聞いてないのか、そう言いたげにギロリと睨むAを無視して、煙草ケースの中から一本だけ頭を出して、ん、と差し出す三好。
妙な雰囲気の押されたのか、はたまた眠気覚ましなのか、一本もらったAはライターを受け取って
シュボッとタバコに火をつけた。
オレンジ色の火はユラユラと怪しく揺れ、それでいて今にも消えそうなほど弱々しい。
Aは呆然と火を見つめ、そして嫌な事を払拭する様に、吸い込んだ息を吐き出した。
「A、ちょっと。」
「ん?」
振り返れば意外に近い三好との距離、すると彼の口元には火のついていない煙草。
ごく自然な流れで三好は、火のついたAのタバコに自分の煙草を添え火を移した。
用が済めばふらりと離れた距離、
何を考えてるの?
そう顔で物語っているAを無視、ぼんやりと外を眺めた三好はふと口を開いた。
「…何故D機関に?」
唐突な質問に、Aは思わず表情が崩れるが、流されないよう言葉に気をつけ、茶化すように鼻で笑う。
「私、今は自白剤飲んでませんけど。」
「素面だからこそ尋ねてるんです。」
「ふふっ、面白い事を言いますねえ。」
「僕は至って真面目ですが。」
横目で観察した三好は、彼も同じ様にAに横目をやっていた。
しばらく見つめ合った後、Aはふうっと煙草を吐き出す。
「秘密、秘密ですよ。」
「頑なですね。」
「全くです。」
この場にないはずの声に、二人で振り返れば実井がいい笑顔で佇んでいる。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時