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ゐ 錯乱した女スパイ ページ26

「お母さん、」

そう呟いて、福本に抱きついた。
広い背中に両腕を回して幼子のように甘えた彼女は、そのまま全体重を福本に預けた。
対する福本は、母親と呼ばれて怒るべきか、心を許してくれたことに喜ぶべきか葛藤していたが、



「よく頑張ったな。」

と後者を取った。

ぶふぉっと連中の漏れ笑いを聞き流して、抱き上げたAを、ソファに横たえる。
つうっと残った涙が落ちたが、こればっかりは掬い取る事は出来なかった。


さて目が醒めて殺される前に退散だ、
誰かがそう口にして全員でこそこそと部屋をでた。
パタンと扉を閉じた瞬間、小田切は三好に問いかけた。

「何故あんな質問をするんだ?」
「…何を怒ってるんです?
ただ誘導尋問をしようとしただけですよ、女スパイなら誰を標的にするのか。
ただの知的好奇心です。」

大袈裟な素振りをするが、小田切の低い声は止まらない。

「ふざけるな、泣かせるほどやる必要があるのか?」
「なら今度は小田切、貴様がやればいい。」

ビチバチッと聞こえないはずの音が聞こえそうな程、場の空気が悪い。

空気の重さが最高潮に達した頃、
ギイッと食堂に繋がる扉が開いて、のそっとAが出てきた。
あの状態からもう目覚めたのか?と疑問に思うが、足取りは弱くおぼつかない。
咄嗟に入り口にいた田崎が支えてやると、礼の言葉もなくトンとそのまま寄りかかる。

「えーとA?」
「Aじゃないもん、」

もん?、
語尾の異様な不気味さについていけない。
ぐりぐりっと甘えるように田崎の肩口に、額を擦り付けるAは、まだ薬の作用から抜け出せていないようだ。
こんなことをされたら並の男は一溜まりもない。
が、そこは化け物と謳われたスパイ、なんとか持ち直す。


「…じゃあ誰なのかな?」
つとめて冷静に、呪文のように自身に言い聞かせた田崎の警戒はあっけなく崩れた。


「それはねえ、…ひ、み、つ!」

トロンと甘い目をしたかと思えば、きゃははっと笑い始めた。
えっと顔が引きつる全員。
尚も笑い続ける彼女は、文字通り壊れた絡繰人形のようだ。

これは悪い夢か?
そう現実逃避し掛けた頃、爆弾が自らやってきた。





「おい、結城中佐はいらっしゃるか?」

ガチャとドアを開けて入ってきた佐久間中尉。彼は玄関先で信じられないものを目にした。

それは"あの"Aが、きゃっきゃっと嬉しそうに田崎に抱きついている。
他の連中も珍しく逃げ腰になっている、とらわれた田崎は涙目だ。

の 最早、地獄絵図→←う 無意識の中の意識



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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時

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