よ 眠り姫を傍らに ページ16
「…なああれガチ?」
「っぽいな、ほっとけよ。」
後部座席にてほんの僅かだが、穏やかな寝息が聞こえてきて一瞬ギョッとなった神永。
波多野は興味なさそうにそっぽを向き、しばらくしてから、自分の上着を脱いで、サッとAにかける。
当然運転席にいる神永には出来ない行動だった。
「やるねえ色男。」
「前を見て運転しろ。」
ごもっとも、と呟いた神永はもう一度ミラー越しにチラッとAに視線を向けた。
「(スパイがこんなとこで寝るなよ。)」
届きもしない悪態をついてから、少しだけスピードを落とした。
当然感づいたであろう波多野も何も言わずに窓の外を眺めている。
ゆっくりと外の景色が流れていく中、車はなんの問題もなく目的地、つまり神永たちが出入りしているビルディングへたどり着こうとしていた。
すうっと流れていく景色の中、波多野はなんでもない様に口を開けた。
「A、向こうで踊り子してた。」
唐突な報告に思わずハンドルが狂いそうになる神永。
はあっ?!と顔で言っている神永に我関せずで波多野は続ける。
「情報収集の為だって言ってたな、本人は。
あいつの顔、夜と昼じゃ全く別。
ったく、一瞬別人かと思った。」
チラッと後部座席で寝ているAを見つめた後、何事もなかったかの様に前を向く波多野。
気配だけでそれを感じ取っていた神永は複雑な気持ちの様で、唇の端が微妙に歪んでいる。
一方波多野が思い出していたのは、イェンと佐伯が絡み合うあの夜の情景。
その傍で二人を見ていた奇妙な男。
正確にはイェンに欲望の眼差しを向け、佐伯には嫉妬の目を向けていた。
その男を波多野は二人が踊り初めてからずっと気がついていた。
建前上Aにああは言ったが、ムカつく気持ちを抑えきれずに、投げ飛ばしたとは到底言えない。
「あああーなんだあ、Aの踊り子姿が拝めるんなら、俺が田崎の代わりに行けばよかった。」
「貴様じゃ無理だ。」
「あ、なんでそう言えるんだよ。」
「別れ際にキスをしておいて、お前がイェンになったAを素直に離すとは思えない。」
一段声を落として呟いた波多野の言葉に、神永は今度こそハンドルが揺らいだ。
とは言っても小石を踏んづけた程度の小さなものだったが、波多野には十分伝わった。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時