た 据え膳食わぬは ページ17
「お前さあ動揺しすぎ。」
「いや。別に。」
覇気のない言葉で言われても説得にすらならない。
はあっと小さなため息を吐いた波多野。
神永は、じいっと恨めしげにバックミラーを睨みつけ、
ガッと唐突に急ブレーキを踏む。
「っ、おい!」
「なんだよ、ついたぜ。」
文句を聞く前に外に出た神永、つられて波多野も表に出れば、なるほど確かに、"仮の家"とも言える見慣れたビルディングに到着していた。
「おい、起きろ、」
後部座席の扉を開け、小声で叱責するように囁いた神永を他所に、Aの寝息は止まない。
これが狸寝入りだったら二人は即気がつくが、あいにくと本気で寝入っているらしい。
「はあ、しょうがねえな。」
「あ、おい、」
神永が止めるより先に波多野は後部座席に身を乗り出し、Aを横抱きにして出てきた。
「…波多野さあ、お前俺が寝ててもそうするわけ?」
「はあ?何訳のわかんねえ事言ってんだ。
蹴っ飛ばして放置するだろ、普通。」
「はは、俺でもそうする。」
意見が合致したことは喜ばしいが、神永は更に頬をひきつらせる。
察しているのかいないのか、曖昧な顔でニヤニヤ笑っている波多野を置いて、神永は怒った様に歩き始める。
まさかAを抱えるその役を、できれば自分がやりたかったとは言えない神永。
きゅうっと悔しげに奥歯を噛んだ後、波多野のためではなく、あくまでもAの為に食堂に繋がる扉を開けた。
「A?!」
「佐久間さん、煩いですよ。」
横から笑顔で止めた実井に、ああと怖気付いた佐久間。
台所の奥から顔を出した福本は、珍しく動揺を表に出している。
「おい、Aに何があったんだ。」
「安心しろ、寝てるだけだ。」
ため息混じりに答えた波多野は、ゆっくりと食堂のソファにAの体を横たえた。
佐久間、福本、実井を含め、全員でスヤスヤと眠りこけているAを眺めた後、
「よし、俺は報告書仕上げてくる。」
と波多野が出て行き、
「じゃあ福本さん、僕が買い出しに付き合いましょう。」
「ああ、お願いする。」
実井と福本もなんでもないように出て行く。
そして、
「俺もそろそろ本部に帰る時間だな。」
佐久間も腕時計にチラッと目をやってから、やや急ぎ足で立ち去った。
後に残ったのは神永一人とソファに無防備に横たわるA。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時