ふ 全ては暑さの所為 ページ33
甘言、懐柔、テクニック、欲、金、愛、…男女の仲に繋がる路などいくらでもあるのに、D機関の目には等しく、Aがそれらに引っかかることはなく、むしろ見向きもしないと言うの結論だった。
「(鉄壁に見えて柔軟、儚いように見えて強か、そして…、)」
考えの渦に飲まれている実井を不審に思ったAは、振り返って彼を見た。
「実井、読書が進まないようですね。」
「そんなことはありません。」
「いいえ。頭に入ってないはずです。」
サッと本を取られた実井。
ペラペラと適当にページをめくったAは、この見開きの文字を空で言って見て、と突然の無理難題を言う。
何故なら実井はAの前でそのページは捲っていない筈だからだ。
が、"逆"の意味で戸惑う実井。
それに答えて何の意味があるのかという顔で、
「はあ…答えるのは別に構いませんが…」
とフランス語の詩集、見開きの四ページは跨ぐ長い詩をご丁寧に"頭"から、ドイツ語で読み上げた。
凡人なら何処から突っ込めばいいのか戸惑うが、
あいにく二人はD機関所属のスパイ人間。
Aも相手の台詞を一字一句聞き落とすことなく聞き取り、こくんと頷いて素直に本を返した。
「つまらないくらい完璧ですね。
どうせならラテン語で読み上げて欲しかったです。」
「ならもう一度ラテン語で読み返しましょうか?」
「もう結構です。」
不審げな目は呆れたような目つきに変わり、さらりと髪が揺れた。
タッと立ち上がって立ち去ろうとするA。
その手を引っ掴んで止めた実井。
「何です?実井。」
「僕とゲームをしませんか?」
「ゲーム?」
「ええ、さっき貴女がした質問を僕がします。
貴女が読書に集中できていなかったと分かったら、貴女の一日を僕に下さい。」
途端にAは盛大なため息を吐いた。
「分かりきっている事実でゲームをするのは馬鹿げてますよ、
『Aは集中して本を読んでいた。』
"あなたの"観察ではそうなんでしょう?
実井。」
同情さえ感じられる笑みで、にこりと微笑んだAは、今度こそきっぱりと腕を振り払って実井の元から逃げ去った。
後に残った彼は、段々と温度が増して来た夏の日差しに苛立ちを覚え、本を投げ出し寝転んだ。
「(…貴女は何処まで知っているのでしょうね。)」
自嘲的な笑みを漏らして、ゆっくりと意識をお手放す。
蝉の音がだんだんと小さくなりはじめた頃、秋はもう目の前まで来ていた。
61人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時