こ 第七幕(前)〈見えない敵〉 ページ34
秋も深まった頃。
ドイツからの任務を終えて帰って来たAは、穏やかな西日がさす中、ゆったりと午後を過ごしていた。
するとそんな折急に背後に人の気配が。
「急を要する、
直ちに補佐に出ろ。」
振り返れば、そこには魔王が佇んでいる。
ばさっと大量の資料を渡されその場で一読する。
文字を追うごとに険しくなっていくAの表情を無の表情で見つめる結城中佐。
顔を上げたAは、結城中佐の言わんとすることが分かっていた。
読み終えた書類を結城中佐に渡し、Aは暫し考え込んだ後口を開く。
「相方は小田切がベストでしょうか。」
「ああ、やり方は問わん。
どちらにしても"一度"で片付けろ。」
言うだけ言って資料を持ち去った結城中佐は、歩きづらそうに、片足を引きずりながら立ち去る。
すると結城中佐と入れ違いに求めていた人物が入って来た。
「A、結城中佐からは?」
「ええ今聞きました。
早速ですけど付き添ってもらえます?」
頷いた小田切を連れて外に出たA。
向かう先は西洋ものの婦人服を扱っている店で割と名の知れたブランドもの。
最近は戦争のせいで材料も不足しがちな上、憲兵の見回りも厳しいせいで、すっかり成りを潜めてしまっているが、実際はきちんとある。
ただ"ちょっと"わかりづらいだけなのだ。
辿り着いた先に小田切は唖然とした。
外装の地味さとは一変、高級感が滲み出る店内に呆然と固まっている小田切。
そんな彼の手を引いて半ば強引に中に踏み込んだAは、素早く店のマスターを呼びつけた。
「これはこれはいらっしゃいませ。」
現れた男は白髪に猫背の紳士らしい男。
しかし、窪んだ目から覗き込む鋭い眼光は"目利き"の男だと察した小田切。
一方小田切の視線に気がついた男は、ギロリと逆に睨む。
するとすかさずAは鋭い声で男を窘めた。
「この人は私の連れよ、妙な詮索はよして。」
「承知しました。」
マスターは恭しくお辞儀をし、Aを奥へと通す。
Aは小声でここで待ってといい、小田切を置いて服を選び始める。
目敏いマスターはすかさず助言を入れるが、マスターだけの言葉を鵜呑みにせず、ズケズケと服にまで意見を入れる。
「あら、この型は古いわ。」
「左様ですがよくお似合いですよ。」
とか、
「おや、これなんかどうでしょう、お求め安い価格でしょう?」
「あまり人の足元を見ないで、それに高いわ。」
とか、まあ鈍い男には到底ついていけない話が繰り広げられていた。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時