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け 腹の探り合い ページ32

数日後Aが例の場所に訪れると、意外な先客がいた。


「実井。」
「A、使わせてもらってますよ。」

ニコッと笑う実井は、D機関の中でも小柄で男にしては愛らしい容貌を持つ。
Aも笑顔で返して彼の隣に座り込んだ。

「気に入ってもらえたようですね。」
「ええまあ、」

曖昧に応答するあたり"かなり"気に入ってもらえたらしい。
Aも持ってきていた本を開く。
実井も開いていた本に目を戻して、二人して無言の読書タイム。
昨日のかんかん照りが嘘のように穏やかなので、暑さに苦しむことなくサクサクと読書は進む。

「(しかし、
普段の警戒っぷりが嘘のようですね。)」

実井は読書を楽しみつつ、その片手間に隣のAをそっと観察し始めた。
涼やかな顔で自分の隣に腰かけているこの女スパイは、非常に警戒心が強い。

甘い口説き文句で、ターゲットを軒並み落としていく田崎や三好。
豊富な語彙力を駆使して、ものの数分で他人を懐柔できる福本や小田切。
女受けする顔と手練手管ですんなり懐に入り込む甘利や神永。
女に奉仕するだけなら他よりもテクニックを心得ている波多野と実井。


そんなジゴロで得た技術でもこのAという女スパイが陥落することはない。
単に鈍いのか、それとも、

「(彼女自身が容易に陥落しないほど強いのか。)」


その強さの元は、男にのまれない、と言う自負心から来るのだろうと実井は思った。
実井自身はその自負心に否定はしないし、実際持ち合わせてくれなければ、仕事もままらない、と思っている。

一方で自分達以外にも彼女と交流のある男がごまんといる。
だがその連中はAに騙されたことすら気がつかずに、次第にAを忘れていく。
だけど自分達はどうだろうか。


「(タダで忘れるには、少々惜しい。)」

妙な張り合いが同僚の間にあるのは否定しない。
スパイ業をする片手間に、"ただの"男として接触して見たいというのは、スパイゆえの好奇心から来る。

「(何処まで気づいているんでしょうか。
貴女は。)」

ペラリペラリと、
頁を捲る手を止めず、耳だけを頼りに実井は観察を続ける。

あらゆる観察と思考を駆使しても、頭の中身だけは"見られない"。
スパイにとってはそれが武器であり、それが弱点にもなる。
スパイ同士の駆け引き、Aと言うこの女スパイ相手にどこまで通用するかは、ある程度予測がつくはずだった。




けれどそれは大きな見当違いだった。

ふ 全ては暑さの所為→←ま 猫とスパイと君と



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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時

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