わ Loin et proche ページ14
港が近くにあるだけあって、海が綺麗に見える。
カツンと立ち止まったAにつられて、波多野も傍に立ち止まった。
目の端いっぱいに広がる夜景。
昼間の爽やかな青さは失せ、全てを飲み込むような毒々しい黒い色が広がっていた。
「なあ、今回…踊り子も必要だったわけ？」
唐突な質問にAは思わず表情を表に出して振り返る。
井上の皮を脱ぎ去った波多野は、表情の読めない顔つきで、Aを睨んでいた。
「(怒ってる？)」
答えは出せても原因がはっきりとしない、Aは自分の一連の行動を振り返ってみるが、ヘマはしていない筈。
ならどこに怒こる要素があるのか。
訝しげな表情でAは至って普通に答えた。
「能率効率のために、ですね。
それにあれはあくまで曉燕の夜の姿、ミスはない筈ですよ。」
「ふうん、本当に能率アップのつもりなら俺はいらないよな。」
「え、どういう事です？」
「俺の役目は明らかにお前のお守り役だろ？
普通に考えて佐伯だけでいいはずなのに、俺もつけたってことは、」
「まさか、踊り子"イェン"の保護…それは怒るわね、ごめんなさい。」
しゅんと、しおらしく落ち込むAに波多野はちげーよ、とすかさず訂正を入れる。
「いや、そういう意味でなくて。
あーその、
目立ってたの、お前。」
語気の荒くなる波多野は言葉をうまく選べずに戸惑うが、思いっきり話を逸らすように別の事で注意する。
「とにかく目立ちすぎ、実際お前と佐伯の密会を見てた奴もいたしな。」
「…え、待って。
つけて来たのは波多野でも、密会に居たのは別人？」
「おう、なんか怪しいんでとりあえず気絶させておいた。」
「そんなことまで…」
ふうむ、と悩み始めた女の顔は、"イェン"でも"曉燕"でもない。
どちらでもあって、どちらでもない女の顔。
しばらくじっとその横顔を見つめていた波多野は、大きくため息を吐いた。
「(なんださっきから…俺の調子が変なのか？)」
波多野は色々混乱した。
この混乱の原因はなんだ、冷静に自分にそう問いかけたが、即座にやめた。
"それ"はスパイには不要のもの、そう本能で悟ったのか、"それ"に蓋をした。
握った手を強めに引っ張って、波多野は小声で言い放つ。
「…行くか。」
「ええ」
ひらりと海風に靡いた青い絹が、〈燕〉の尾の如く名残惜しげにはためいた。
か 第三幕〈任務帰りと疑念〉→←を Une autre personne d'espion
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (
レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます！もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです！ (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アサノ | 作成日時：2017年7月9日 14時
