第四二訓 ページ42
その間、ほんの数秒。
輪廻が咳き込む顔をあげ、岩融が焦ったように輪廻に手を伸ばし。
蛇が暴れ、刀剣たちは自分の、私の名を呼んで。
Aは慣れぬ左手で小太刀を力一杯引き抜くと。
「…っ、ああああああ！！！！！！」
痛む身体を引きづりながらその小太刀を輪廻の胸元に、突き刺した。
ーーーばきっ、
「あ、ぐっ……ごほっ」
床に落ちた賽子が音を立てて弾ける。
付喪神の憑く、そのモノが壊れたなら。
私の、勝ち。
「…A、あんた…」
「母様、これで、…さよならです」
ーーーぐしゃあっ
「……ごほっ」
「主！！！！」
同時に、私の腹にも、重い長い、薙刀の先端が食い込んでいる。
深く、深く。
「…な、んだ、そんな顔も、できるんだ？」
岩融は息絶え絶えでひゅう、と喉を鳴らす輪廻を抱え、もう片方の手で突き出した薙刀につながるAを泣きそうな顔で、見つめている。
「……本当は、俺は」
「こう、かいなんて、する必要ないんじゃない？…だって、あんたは、ちゃんと主を守ろうと、したんでしょ。…母さまは、私にとっては酷い人、だったけど、悪人じゃないのは、知ってるから。……あんたもただ母さまを、まもりたかっただけ。どうかそのみを、あくに、そめないで」
「娘…いや、A。あんたは、どうしていつも…」
「……悪人ってのは…一人で、いいんだよ」
ーーーずる、
「…あ、れ」
薙刀から逃れるように後ろへ倒れこもうとしたAを支えたのは、三日月だった。
「ああ、俺はいつでも大切な人を守れなんだ」
「なにいってんの、あんたは、まもってくれたよ」
「なにを…」
「信じて、くれただろう。それで、充分だよ」
「それでも俺は、俺たちは、あんたを殺した…！」
「これは自分で選んだことだと、言ったじゃないか」
ふ、とAは笑顔を浮かべ、こちらを覗き込む刀剣たちを見やる。
「そうだな、ここにいるのは…鶴なら知っているかな。花も花なれ、人も人なれ…」
「散りぬべき時知りてこそ世の中の…細川ガラシャの句か」
「うん。…散り時を心得えてこそ美しい……、自分の死に際くらい、わかるさ。…もうね、足も腕も、首ですら思い通りに動かない。…ならば最後くらい、綺麗に死なせてくれ」
ーーー愛しい私の刀たち
ーーーどうか、どうか
ーーー幸せであれと
「…どうか、貴方のその魂が」
ーーー再びこの地へ導かれんことを
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黎奈(プロフ) - はじめてコメントさせていただきます！！すごく面白かったです。完結お疲れ様でした！第四訓で宗三左文字が宗山左文字になっていらっしゃるのでご報告させていただきます。あと、ちょこちょこ報告に来るかもしれません… (2015年10月18日 22時) (
レス) id: 339ceb4b4b (このIDを非表示/違反報告)
華維璃(プロフ) - お疲れ様でした！とても面白かったです！小説の書き方、参考にさせて頂きます<(_ _)> (2015年9月22日 20時) (レス) id: 5dbf713d35 (このIDを非表示/違反報告)
連合(プロフ) - お疲れ様でした！ (2015年7月19日 17時) (レス) id: bbc5de6b90 (このIDを非表示/違反報告)
らい兎(プロフ) - 第三四訓の「突き出ているのは日本の大きな角。」というところもしかして日本→二本でしょうか？面白かったです。 (2015年7月13日 23時) (レス) id: 5d4b050560 (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - お疲れさまでした、面白かったです！宗近のじいちゃんが入手できないのが痛いですね。 (2015年7月10日 19時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：稜 | 作成日時：2015年4月10日 14時
