花笑み Ⅲ (ページ34)

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119.季節外れの花ページ34

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季節は移り変わり、
長引いた夏の空気は、
一夜にして秋の空気に変わったらしい。

風が季節の訪れを告げている。

青々と茂った草木は、
気づけば色を変えていて、

それが突然街に溢れ始めて焦る。

草木はこうやって枯れていき…
来年、また花を咲かせる時を待つ。

季節の変わり目に吹く風が、
匂いが、空気が、たまらなく好きだった。

この匂いを知ったのも
「今日は秋の香りがするね」
と、教えてくれた阿部ちゃんがいたからだ。

暦の季節が変わる時、
そして、季節の訪れを告げる風が吹いた時、

阿部ちゃんは、
それを嬉しそうに報告してくれる。

俺にとって、季節の移り変わりは、
阿部ちゃんの言葉から始まっていた。

彼が「秋だね」と言った日から俺の秋は始まるし、
「冬だね」といった日から、冬が始まる。

もう何年も、そうしてきた。

きっと今日から「秋」が始まるんだろうな。
そんな予感がした。

涼しくなった心地よい空気を吸い込んで、
そんなことを考えながら街を歩く。

いちょうの木には果実が実っていて、
もう少しでそれが地面に落ちたときの、
独特な香りのことを思い出すと、
思わず頬が緩む。

去年、阿部ちゃんとその独特な匂いのする銀杏並木を
一緒に笑いながら歩いた。

俺は緩む頬を必死に隠しながら、
綺麗ないちょうの葉っぱを一枚拾って、

阿部ちゃんにみせてあげようとポケットにしまった。