花笑み Ⅲ (ページ3)

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89.約束ページ3

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阿部ちゃんは、よく眠るようになった。

薬を辞めた今、
阿部ちゃんの身体に咲く花は
容赦なく彼の身体から必要な栄養分を吸い取って、
成長していく。

もちろんそれは彼にとって負担でしか無くて、

普通に生活しているだけでも、
激しく運動したときのような疲労感がつきまとい、

踊ったり歌ったりすれば、
もちろんその倍以上に疲労が溜まっていってしまうし、
エネルギーを消費してしまう。

今は週に一回病院で栄養を補う点滴や注射、
毎日の栄養補給のサプリや、
最低限の生活ができるだけ薬を飲んで、

阿部ちゃんは何食わぬ顔で仕事をしている。

睡眠はその反動、
至極真っ当な生理現象とも言える。

…なんて、彼は決してそんなことを言わないし、
眠ってしまった時も、
病気のせいだとは一言も言わなかった。

それでも、読み漁った文献に、
しっかりと明記されている。

『花咲病』については、
一通り勉強してきた。

だから、彼が多くを言わなくても、
彼の中で何が起きているのかはだいだい予想できる。

学校の授業や課題と並行して、
ネットで色んなサイトを調べ上げ、

近くの図書館で
病気に関する本を読み漁った。

そこに置いてない気になる本があれば買ってきて、
穴が空くほど読んだ。

課題を見てくれていたのに、
気がつけば目の前で眠ってしまった阿部ちゃんを眺めながら、

僕は一旦課題を閉じて、
またスマホで『花咲病』と検索してみる。

何度も見た、よく見慣れたサイトが並んでいて、
何度も読み返した文字に、
もう一度最初から目を通していく。

身体の中に花が咲いて、
初期症状は軽度の頭痛や目眩、
進行してくると咳や胸の痛み、
花吐きの症状がみられるようになる。

重症化すると…

そこまで読んで、画面を閉じた。

内容は知っている。
何度も何度も読んだのだから。

眠っているはずの阿部ちゃんの口元から、
はらはらとまた花びらが落ちる。

意識がない状態でも花が散るのは、
末期の症状だというのも、何度も読んだ。