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母がいなくなって少し経った頃から、家によく知らない大人の女の人が来るようになった。どことなく母と似た感じの人だった。父はその頃からお酒を飲むのを少し控え、無精髭を剃ったりと身なりに気を使うようなった。その人は父と親しい関係のようで、いつもは私を殴るばかりだった父も楽しく笑うようになった。私は父の笑う姿をそのとき初めて見た。
その人は私にとても優しくしてくれた。美味しいごはんを作ってくれたり、ゴミだらけの部屋を片付けてくれたり、洗濯や洗い物、私の服を見繕ってくれたりもした。いつもにこにこ笑っているその人を見ていると、母も笑ったらこんな感じだったのかなと思った。でも、母の顔はだんだん曖昧になっていった。
いつの間にか、その女の人は一日中家にいるようになった。
私はいつも部屋の隅の方で寝ていたけど、女の人が三人で寝ようと言うので、三人で川の字になって寝た。父のイビキはうるさいし、女の人の寝相は悪くて、一人で寝る方がいいなと思った。でも二人とも幸せそうな顔をしていた。だから私もそこで我慢して寝た。それなのに、たまに一人で寝てと言われる日があった。嬉しかったけどなんでだろうと思っていた。そうしたらたまたま薄く開いた扉から二人が裸で抱き合っているのが見えた。そんな日はいつもより縮こまって、女の人の高い声を聞かないように耳を塞いで寝た。
しかしある日、今日は一人で寝られる日だと思って横になっていると、二人が言い争う声が聞こえた。それとドンって大きな音と、ミシミシって建物がきしむ音。女の人の泣き叫ぶ声も、父の怒鳴る音も聞こえた。しばらくたってドタドタと玄関に走り寄る音がして、勢いよくドアが閉まるも聞こえたけど、気にせずに寝た。朝起きたら女の人はいなくなっていて、それからもずっと帰ってこなかった。きっとあれは女の人が出ていった音なんだなと気付いた。そして女の人が作ってくれた、机の上に置いてあった朝ごはんを食べた。冷たかった。
それから父は以前にもましてお酒を飲むようになって、前よりもっと暴力的で自堕落になった。部屋もすぐにゴミだらけになったし、前よりももっと殴られるようになった。痣は消えかけていたのに、また増えてしまった。最近はいいにおいになったと思っていた部屋も、再びアルコール臭で充満した。酔いそうだった。そうしたら、母と同じように、女の人の顔もどんどん曖昧になっていった。
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作者名:はむめろん | 作成日時:2018年8月14日 15時