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それからまたしばらく、静寂が辺りをつつんだ。もう日はとっぷりと暮れており、空にはまばゆいばかりの星が点在していて、三日月が柔らかい光を放っている。
「……まだ、死にたいと思いますか」
「うーん、分かんね。もう考えるのもめんどくせえ〜。そっちは?」
「…………おでんがもう一度食べたい、と思ったので、まだ死ねないです」
自分と同じだと分かってから、どうしても放っておけなくて、何故かここに連れてきてしまった。いや、本当はなんの考えもなく連れ出して、たまたまここに来ただけだったんだけど。最近チビ太に会ってないし、おでんも食べてなかったし、まあ結果オーライだ。と言っても、チビ太は寝ていたわけだけど。それにしても店開けたまま寝るとか、ほんと不用心だよな、こいつ。
「ん、分かった。今度また連れてってやるよ」
「……ありがとう、ございます」
「!」
社交辞令とかじゃなくて本気でそう言ったら、お礼を言った少女の口の端がつり上がった。これはもしかして____
「笑っ、た?」
「?」
「うわ、マジか____ギャハハハハハハ!! なんだその顔!!! それ笑ってんの? ほんとに?」
「……笑ったんですか、私。いや、あの、顔が勝手に」
「ヒィ、ヒィ、久しぶりにこんな笑ったわ〜」
「…………人のことをそんなに笑うなんて、失礼ですね」
そう言った少女は、今度はきれいに微笑んだ。その笑みに、心が暖かくなる。よかった、笑ってくれて。死人のようだった少女の顔に生気が宿ったのが、何故かとてつもなく嬉しかった。
「で、どーすんの、この後?」
「家に、帰ろうと思います」
「え、マジで? 帰んの? 大丈夫?」
「大丈夫です。多分」
「多分って……まあいいよ、家どこ?」
「一人で帰れます」
「あーダメだって。俺が送ってくから」
「でも……」
「まだ、死にたくないんだろ?」
「……多分あっちです。少し遠いですけど……」
「分かった。じゃ行こっか」
今までのツケていた分の金を全部置いて、俺は屋台を出た。
「…………もう、行ったか? ったく、いつまで寝たフリしなきゃいけねえんだよコンチキショー」
そう悪態をついたチビ太の目がキラリと光る。
「オイラのおでんで、誰かが救われたんだな」
チビ太はおでんを作り続けて以来、一番と言えるほどの感動を覚えていた。
「しっかりしろよバーロー」
そうしてチビ太は、これからも誰かのためにおでんを作り続けよう、と決意したのだった。
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作者名:はむめろん | 作成日時:2018年8月14日 15時