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「…………まあ、それが今日の話です」
「…………」
私がそう締めくくると、男は黙りこくったまま動かなかった。男の顔をちらりと見ると、憂いを帯びた顔、というのはこういうものなのだろうなと思った。しばらく、心地のよい静寂が辺りを支配した。しかしそれも長くは続かなかった。
「でさ、結局死のうと思った理由は何なの?」
唐突に投げかけられた問いに、すぐに答えることは出来なかった。確かに、何故なんだろう。自分のことのはずなのに、全く分からない。でも、強いて言うとするならば____
「…………面倒くさかった、から」
そう、面倒くさかったから。今こうやって思案するのも面倒くさい。息を吸うのも、吐くのも、まばたきをするのも。
「……多分、そうなんだと思います。私自身、よく分かってないんですけど」
「……へぇ」
そうして、また辺りを静寂が支配する。でも今の静寂は、心地よいものではなかった。
「……少し、質問してもいいですか」
今度の静寂を破ったのは、驚くことに私だった。でもこの言葉は、きちんと私が考えて、意識して出したもの。
「……んー、何? 話題振ってくるなんて珍しいね」
「…………あの、あなたは、どうして」
男の目を見ようと首を動かすと、男はこちらの方を向いていて、視線が合った。やっぱり、よく分からない。男が何を考えているか、とか。そもそも私は相手の感情を汲むことに関しては、全くといっていいほど才能がないのだけれどそれを差し引いて。でも私は、しっかりと、男の目を見て、次の言葉を発した。
「____どうして、死のうと思ったんですか」
「…………!」
男は面食らった顔をしたが、そのあと目を伏せて、どこか悲しそうな笑みを浮かべた。
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作者名:はむめろん | 作成日時:2018年8月14日 15時