今日もモブはモブらしく、ヒロインルートを外れます

紋白蝶の誘惑 ページ5

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拙い...拙い、拙い。

非常に拙い。




「先生それどーやって作ったのー?」




それは昨日のこと。
15年間避け続けた相手と見事に出合い頭にフォーリンラブ的な状況に陥ってしまったのだ。
そのまま退散しようとしたけれど、うっかり落としてしまったのは松下村塾の教科書。

あの時私は、誤魔化すどころかその教科書を受け取ることもせず、ただがむしゃらに走り去ってしまった。




「先生...?」




終わってしまった事は仕方が無い。これからは更に用心深く行動するとして、教科書は御守り代わりに私が肌身離さず持っていたもの。容易く諦めきれるものではない。

しかし今それを所持しているのは...





「朝日奈先生!」




溜め息を吐くや否や、耳元で響くのは子供の大声。
びくりと体を上下させれば、目の前には頬を膨らませた生徒が可愛らしく私を睨む。




「それの作り方教えてってば!」




指をさすのは私の手元にあるシロツメクサの冠。


今日は前々から考えていた校外学習。とは言っても、寺子屋の近所の公園だけど。
平日の午前中だと言うこともあるのか、車は絶えず通るけど人の少ない此処は貸し切り状態。


やはり自然はいいものだ。都会とは言え探せば緑は意外とある。
女の子達は私のお花の冠講座を受け、男の子達は遊具や鬼ごっこに勤しむ姿があった。

教室ではまだまだ少ない方だと思っていたが、こうして見ると全員に目を届けるのは難しいものだ。
でも手習いどころか見習の先生でさえ雇うお金はない。




「道路には出ないでね!」




遠くで遊ぶ子供たちの声を掛ければ良い返事が返ってきたが
ふと、視線を移した先にはふらふらと歩く一人の生徒。

目を凝らし、見えてくるのはひらひらと舞う紋白蝶。後を辿る生徒に嫌な予感がする。


立ち上がった頃には遅すぎて。まるで誘導されるように向かっていくのは見通し悪く交通量の多い道路。






「待って!」






駆け付けるには足は遅すぎた。
咄嗟に叫んだ声と伸ばした手。







もう、誰も失いたくない_____







予想される目の前の光景に身構えようと覚悟した時、

届かないはずの手はその子を荒々しく引っ張り止める。



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