四話 曲がり角で ページ4
「ふう、今日の仕事も終わり！」
今日はいつもより仕事量が少なく、夕食時間のだいぶ前に終わることができた。屋敷内を歩き、使用人の出入口へ向かう。部屋に戻って、兄への手紙の返事でも書こうかと考えていると……
「きゃっ」
「わっ」
曲がり角で誰かとぶつかってしまった。顔を上げると、散らばった数冊の本とクラリス様がいた。
「申し訳ございません！クラリス様、大丈夫ですか？」
慌てて謝り、クラリス様を立たせるために手を貸した。
「ありがとう。わたしの方こそごめんなさい」
そう言うと、散らばった本を慌ててかき集める。手伝おうと手を伸ばした本のタイトルには見覚えがあった。
「これ、『獣人のお気に入り』じゃないですか」
「！？ソフィア、これ知ってるの？！」
途端、クラリス様はパアッと顔を輝かせる。
『獣人のお気に入り』は人型と獣の外見を合わせもつ獣人の男と人間の少女の恋物語だ。現実世界では空想上の存在である『獣人』と、それと敵対している人間の少女との恋愛に夢中になる女子が多い。かく言う私も友達に勧められ、図書館から借りて読んだことがある。
「はい。ここに来る前に友達に勧められて読んでました。あ、新刊出たんですね」
「そうなのよ！！」
クラリス様は目をキラキラと輝かせて本を片手にずいずいっと近づいてきた。
ち、近い……美人が近すぎる……。
「在学中に新刊は出てたんだけど、取り寄せることができなかったからやっと読むことが出来るの！！もうほんと楽しみすぎて、いっそのこと一巻から読んじゃおうと思って。わたし、ウィリアム様が大好きなの！わかるかしら、メインヒーローのウィリアム様！三巻のあのシーンは最高だったわ！あ、ネタバレだったら悪いわよね。ソフィアは何巻まで……」
いつ息継ぎをしているのかというレベルで話していたクラリス様はハッと気づくと頬を赤く染めた。
「ご、ごめんなさい。興奮しちゃって。お、おかしいわよね。貴族がこんな、恋愛小説読むなんて」
「おかしくないですよ。他人の本の趣味にとやかく言う人がおかしいです。人それぞれなのに」
そう言って運びます、とクラリス様の持っていた本を受け取る。なかなかの重さだ。これをクラリス様が運ぶのは厳しいのではないだろうか。
クラリス様の部屋へ向かおうとすると、待ってと引き止められる。
「ありがとう、ソフィア」
クラリス様は極上の笑顔を見せた。
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作者名：お芋 | 作成日時：2019年10月16日 21時
