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旅人は船に乗って璃月に戻っていった。今日は晴天で、さぞ船乗り日和だろう。

僕はスネージナヤに向かう準備をしていた。ファデュイが話していた事を聞いて割と急いでいる。

淑女の葬式が、今日執り行われるらしい。葬式、と言ってもファトゥスだけで行う物だけど。

この国を出るというと影や神子は急すぎると少し駄々を捏ねていた。

僕は上皇との契約を守り、淑女の亡灰を届けるべく能力抑制の薬を流し込む。

スネージナヤは極寒の地、僕が一番好む気候で能力が暴発しやすい。


「…っうぇ、にが」


白朮に処方して貰ったこれは効き目は抜群でも苦すぎる。普段果実しか口にしない僕にとっては地獄だ。


「あら?神柱様、ごきげんよう」

「綾華、それにトーマも。こんにちは」

「やぁ神柱様。こんな所でどうしたの?」


スネージナヤの方向を見つめていると後ろから二人に声をかけられた。

トーマはもう外を出歩ける様になったらしく、二人とも嬉しそうだ。


「もう次の国に行こうと思って海を見てたんだ」

「もう行かれるのですね…少し寂しいです」

「また稲妻にも来るよ、友達や君達が待っててくれてる事だしね」


そう微笑むと二人は是非、と嬉しそうに笑ってくれた。


「それじゃあまたね、綾華、トーマ。綾人達にも宜しくね」

「はい、神柱様もお体ご自愛下さいませ」


深々と頭を下げた二人に見送られ、僕は静かにその場を後にした。

―――――――

トーマside


「ねぇトーマ、私少し気になる事があります」

「ん?なんだいお嬢」


神柱様を見送って神里府への帰路についた頃、お嬢はぽつりと口を開いた。


「古書に記されていた神柱様は人々の穢れを浄化し、祝福を与えて下さるそうなのです。私のご先祖様も依然穢れを払って頂いたそうなのですが…」


お嬢は何かを心配する様に瞳を揺らした。俺はそっと息を吞んだ。


「その穢れは、一体何処へ行くというのでしょうか…」


俺は目を見開いた。お嬢も不安げに俯いている。だからお嬢は体に気を付けてと神柱様に言ったのか。

あの心優しい神柱様が穢れをどこかに投げるとは考えにくい、対象者から剥がれた穢れは何処へ行くというのか。

そんなの、考えるまでもなかった。


「…お嬢、神柱様ならきっと大丈夫さ。身体も、きっと労わってくれる」

「そう、だと良いのですが…」


お嬢はそれきり喋らなくなってしまった。

あの小さな体に、一体どれ程の重圧を背負っているのか。

俺には見当もつかなかった。

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作者名: | 作成日時:2023年9月17日 22時

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