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その言葉に僕は息を飲んだ。そんな事を言われるとは思っていなかった。

万葉は恰も当然の様に澄んだ瞳を僕に向ける。その瞳に映る僕のなんと滑稽な顔か。

責められるのが当たり前、神柱なのにと縋られるのが当然。

なのに万葉は、目の前の民達はこんなにも優しく笑うのか。


「拙者はお主の立場はあまり分からぬ、その責任も重さも。…故に、拙者からすればA殿はただの友人だ」

「ただの、友人…」


そう呟くと万葉は満足げに頷いた。なんだかドッと拍子抜けしてしまった。

同時に万葉に強さを感じた。この子は全ての旅に意味を持っているんだ。

神の目を光らせる、その目的は変わらずとて全ての出会いと行先に意味を。

それに比べて僕は悪い事だけを引きずって引き籠って…民に笑われてしまうな。

神柱も民と変わらない、悪い事だけが頭に残りやすいのかもしれないと思うと何も変わらない気がした。

久しぶりに、そんな当たり前の事を思い出した。


「友人…ふふ、ただの友人か」


嬉しそうに笑う僕に万葉はまた小さく微笑んだ。

――――――

そしてあれからすぐに将軍、もとい影は目狩り令を廃止した。

旅人に武力で負けた事もそうだけど、民達の願いや思いの強さに永遠を見たんだろう。

稲妻を取り巻く空気が、これから少しずつ良くなっていく事を願ってひっそりと祝福を送った。

そして僕は今、とある民の墓参りに来ている。


「…こんにちは、哲平」


墓石をするりと撫で、心海から預かった隊服をかける。そして一輪、花を手向けた。

彼はニシン一番隊という隊の隊長で、旅人たちと隊服を着るという約束をしていたらしい。

その約束は叶わず、彼は地へと還ってしまったけれど。

旅人にはあとで渡そうと思う。きっと彼女は優しいからまた泣いてしまうだろう。

ここに埋まっている兵士たちは皆、守るべきものの為に力を振るい散っていった。

そこに悲しさはあれど、涙は流さない。胡桃が教えてくれた。


「戦争って悲しいじゃん。でも皆、堂々と散ったと思うの…だから私はそれに応えられる様に送ってあげたいの」

「それが戦争犯罪人でも…?」

「うん。どんな人であれ死は軽んじちゃいけないから。私は私の役目を果たすよ」


戦争にはやっぱり反対だ。戦う理由は分かってもどうしても納得できないから。

でも、自分を貫いた、誇りある民にそれ相応の敬意を込めて。


「どうか、安らかに」


静かに手を合わせた。迷うことなく往けるように、そう願って。

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作者名: | 作成日時:2023年9月17日 22時

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