泡沫のショートフィルム 裏【 Urtnk 】 ページ25
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宴会のそこそこ高い席に座りながら、無意識に彼女の方を見る。
見つめた先にいる彼女はとても幸せそうな顔をしており、でも何処か切なげで。
彼女はとても綺麗で、キラキラしていた。
「 … 嗚呼 」
“ あの日を思い出すな ”
誰に言うでもなくそう呟いた言葉は他の人の声に掻き消されていった。
… 吉原遊廓。それは歴史ある日本一の遊郭。
世の男が欲を発散する為に、一夜の夢を見るために通う、男にとっては天国のような場所。
吉原遊廓は数百年も前に閉鎖されたが、最近になって医療技術も発展し、梅毒などの性感染症も早めに対処できるようになってからは吉原遊廓がまた開店した。
… 彼女は俺が上司の付き添いで行った時にその吉原にいた遊女のうちの1人で。
でも普通の遊女とはどこか違った雰囲気を見せつけており、俺はそこに惹かれた。
だから、俺は彼女にいつか身請けするから待っててくれ、と言った。 … 彼女はとても嬉しそうにしてくれて。
俺は彼女のことが好きだったし、彼女も俺のことが好きだと言ってくれた。彼女はとても顔に出やすかったから好意はすぐに分かった。
… でも結局、数年以上経っても彼女の元へ行けることはなかった。
とても忙しく、遊郭へ行く時間も手紙を書く時間もなかったからだった。
きっと彼女には寂しい思いをさせているだろう。そう思って、あと数年は続いたであろう仕事も徹夜などをして何とか早めに終わらせた。
でもやっと遊郭へ行けた時にはもう彼女は身請けされていて。
そこで気づいた。嗚呼、遅かったんだって。
彼女のために作ってもらった指輪も無駄になってしまった。でも捨てるに捨てれなくて、見る度に心が張り裂けそうになって。
そんな時に結婚式の招待状が届いた。
送り主は日頃から仲良くしている友人だった。
気分転換になるだろう。そう思って出席したのが間違いだった。
「 っ … 」
… 彼女がいた。
いや、ただ彼女がいるだけならまだ良かったのかもしれない。
でも、彼女がいた先がその友人の隣で。
… 悲しみの色が、濃くなった気がした。
もしもあの時、彼女に … 君に。
寂しい思いをさせまいと仕事を
あの時に戻れたなら、と。
今でもそう思ってしまうのは、罪だろうか。
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