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第七十夜 雪 ページ10

残暑は身を潜め、また厳しい冬が訪れる。

貴(……雪か)

朝からユラユラと空から落ちていく雪。

おかげで外は銀景色だ。

だが、

貴(雪は、嫌いだ)

何故かは分からないが雪を見た途端、背筋にゾクリと何かが這うような感覚が襲う。

そして次に襲うのは赤に染まる雪の記憶。

あの赤は何かは分からないが、恐らく血だろう。

貴(思い出したいけど、怖い。あの色が怖い)



藤「おーい、A。外出ないのか?」

朝から部屋に出てこないAを心配してか、外から藤堂の声がきこえた。

藤「せっかく積もっているんだ、雪合戦しようぜ!」

ユキガッセン、というのは何なのか分からない。

だが今はとにかく外に出たくなかった。

貴「雪が、怖いんです。いつかは分からないけど、雪に飛び散った血の記憶が出てきて」

藤「……そっか。無理言って悪かったな」

善意で誘ってくれた藤堂には悪いと思っている。

貴「はぁ……」

膝を抱える。こんなことをしても雪は溶けない。春が来るのもまだ先だ。



斎「A」

あれからいくらか時間が経った後、急に斎藤の声が聞こえて、すくみ上がる。

貴「さ、斎藤さん?」

斎「部屋から出なくていい。だが聞いてくれ。……思い出すのは、怖いか?」

率直な言い方に心臓がドキリと跳ねた気がする。

斎「俺は、これ以上俺達に踏み込むと命の保証は出来ないと言った。アンタはそれでも俺達に関わり全てを思い出すと言った。あの言葉はどうした。そうやっていちいち恐怖を抱えていては、自分にとって都合の良い記憶しか戻らない」

貴「……分かってます。それでも、怖いんです」

斎「俺がいる。Aは一人じゃない。今の所は、だが」

その言葉は、一体。

斎「この間だけでいい。俺を信用しろ。今日だけは、何があっても離れない」

貴「信用……してもいいんですか」

常に一人だった。死の線際に立っていたAはずっと一人だった。

誰も信用してはいけない。そう心の中で固く決まっていた物が斎藤の言葉で少しずつヒビが入る。



貴「今日だけ、信用していいんですか」

斎「ああ。アンタが何を思いだしても、傍にいる」

今日だけ、という期間限定なら。

恐る恐る障子に手をかける。

開けた先には、真っ白な世界が広がっていた。

第七十一夜 天岩戸→←第六十九夜 カンザシ



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作者名:ナッキ | 作成日時:2017年1月26日 20時

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