第九十夜 国に ページ31
貴「というわけでヨコハマに行かせてください」
土「却下だ」
今までの経緯を話し、叔父との接触を試みるために土方の元へと行ったのだが。
貴「……どうしてですか」
土「まずおまえは自分の立場をわきまえろ」
貴「それで何十年も私をここに閉じ込めておけると思っているのですか？ 無理でしょう。それに私は貴方達の不利になる事を言うつもりはありません。ただ、叔父に会いたいだけです」
せめてAだけでも。生きていることを伝えられたら。
それならAが会わずとも、手紙でもどれでもいい。
貴「伝えたいんです。父と兄はもういない事を」
優しい叔父の事だ。今でも三人は無事でいる事を信じているかもしれない。
土「……駄目だ。たとえおまえにその気がなくても、おまえが生きているという事実を知られたら仏蘭西がなにを仕掛けてくるか分からない」
何故Aだけ生きているのか。そして二人は誰に殺されたのか。
土「戦を起こしたくないというのは同じ思いだったはずだが」
そう言われて、思わずAも口をつぐむ。
貴(何かをしようと思っても、国の関係が邪魔をする)
つくづく生きにくい国だ。日本は。
だがそれでも。
貴「……私は、大人しくここで時間が過ぎるのを待つつもりはありません。死ぬつもりもない。生きて国に帰りたい」
土「この前とは随分違う事を言うんだな」
貴「どう思われても構いません。とにかく私はヨコハマに行くのを諦めたわけではありません」
そう言ってAは立ち上がり、部屋を去った。
土「……面倒なほどに弁が立つようになった」
そうは言ったが自分でも知らないうちに笑っていることに気づき、誤魔化すように溜まっている仕事に集中した。
〜
「――斎藤！」
斎「どうした」
某所。斎藤は自分を呼んだ男の方を振り向く。
桜は散った。暑い日が来たと思えば肌寒い日が来たり。この時期は気候も曖昧だ。
「伊東先生がお呼びだ。至急部屋に来るようにと」
斎「……分かった」
どのような用件かは分からないが、恐らくまだ気づかれてはいないだろう。
ただ、気がかりなのは。
斎(Aは今、どうしているのだろうか)
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作者名：ナッキ | 作成日時：2017年1月26日 20時
