第八十九夜 ヨコハマ ページ30
沖「新選組には禁令があるんだ。それが局中法度。その中の一つが局を脱するを許さず」
三屋という男性は遊女に恋をしてしまった。相手もまた三屋を愛していた。
だから新選組から逃げようとしたが、それが監察方によってバレてしまった。
沖田はAの淹れたお茶を飲み、菓子をつまむ。
以前と比べて、少しやつれている。やはり何かの病気なのだろうか。
沖「運が悪いね君も。ご愁傷様」
貴「……随分と厳しい規律があるんですね、ここは」
沖「作ったのが土方さんだから」
貴「それは納得です」
商団にも規律はあった。少しの油断が全体的に商団の崩壊を招く場合もある。
沖「そういえば記憶が戻ったんだっけ、君。なら仏蘭西ってどんな国か覚えてる?」
貴「急になんですか」
沖「ただの好奇心かな」
手の震えが湯飲みにも伝わっていた。隊士が死んだ瞬間が、家族が殺された時と酷似していて。
貴「この時期は、フランスも暖かいですが地方によって気温が違います。油断したらすぐに寒くもなる。秋になると葡萄の収穫が始まります。よく私も近くの農家の人にもらいました。その収穫を祝う祭りもあって、一年で一番楽しい時が収穫祭ですね。兄さんと一緒に屋台を回っていろんな物を買ってました」
父からお小遣いをもらって、使い道のない物ばかり買って後で怒られたりもした。
最後に行ったのはいつだったか。私は、国に帰れるのだろうか。
貴「向こうにいる友達が、私の事を忘れないでくれたらいんですけどね」
沖「へぇ、友達いるんだ」
貴「友達くらいいます。何だと思っているんですか」
その時何かが頭に引っかかった。何かを忘れているような、でもそれが何か分からないような。
貴(そういえば、子供の時友達と大げんかしたな)
些細なことだった。それでも殴る蹴るのけんかになって。
――全く、気が強いのは弟にそっくりだな。
貴「――あ」
そうだ。そうだった。何故こんなに大事なことを忘れていたのか。
沖「どうかした?」
貴「……ここからヨコハマはどれくらいかかりますか」
沖「少なくとも二、三日で行ける距離じゃないね。何、横浜に行きたいの?」
貴「ヨコハマに私の叔父がいるかもしれないんです。いいえ、絶対にいます。……土方さんと話してきます」
そう言って勝手場を去ったAに沖田は呆気にとられた。
沖「……全く、つくづく面白いよね、Aちゃんって」
76人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ナッキ | 作成日時:2017年1月26日 20時