第八十八夜 お茶 ページ29
初めこそ慣れはしなかったものの、いつのまにか斎藤と藤堂がいない日々が当たり前となっていた。
寂しくはあった。だが人間の順応力というのは恐ろしいもので、寂しいという気持ちは持ちつつもこの日常を受け入れていた。
問題があるとすれば、
貴(……退屈)
有り余る時間はAにとって毒となっていた。
ジッと部屋の中で時間が過ぎるのを待っていると、段々自分が惨めになっていく。
一体私は何をしているのだろう。
これじゃあ生きながら死んでいるようなものじゃないか。
貴「……あ、片付けしないと」
目の前に置かれていた膳を見て、ようやく意識が今に戻る。
原田のおかげでAに監視が付くことがなくなった。
あれから原田はちょくちょくAに会いに部屋へ来る。外へ出たのは、あの時が最後だが原田は何度か土方に外出を許すように頼んでいるらしい。
そう何回も外出が出来るわけがない。そう言ったが「俺が勝手にやってるだけだから、おまえは気にすんな」とかわされた。
貴(本当に、なんで私なんかの為に)
人を好きになることがあっても、好かれるなんて考えてもいなかった。
貴(可愛いとかそういうのもよく分からないし)
モヤモヤとしながら膳を戻すために部屋から出る。
まだ朝の時間帯だった。それなのに屯所の雰囲気がなんだか殺伐としていて落ち着かない。
普段なら朝からこんなに慌ただしくはないのだが、今はチラホラとあちこちを行き来している隊士達がいる。
何かあったのだろうか。とりあえずAは接触を避けるために遠回りしつつ勝手場に向かった。
「今日は誰なんだ？」
「三屋だ。遊女と駆け落ちしようとしたらしい」
途中で、そんな会話が聞こえた。
駄目だとは分かっていても気にはなる。Aは膳を片付け静かに隊士の後をつけた。
外には何十人もの隊士達が集まっていた。急いでAは隠れつつも、聞き耳を立てる。
土「三屋。おまえは自分のしたことを分かっているな？」
「……はい。自分は、新選組隊士でありながら遊女と駆け落ちをしようとしました」
土「一、局を脱するを許さず。自分の始末は自分でつけろ」
土方がそういうと、三屋と呼ばれた男は小刀を自分の腹に当てる。その後ろには刀を構えた別の誰かが。
そして一瞬に映る赤の色。重なるあの記憶。
貴「……え」
沖「ここから先は有料だよ。……なんてね」
気がついたら目の前が真っ暗だった。
沖「とりあえず、お茶でも淹れてもらおうかな？」
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作者名：ナッキ | 作成日時：2017年1月26日 20時
