第八十四夜 綺麗 ページ25
貴「どうして斎藤さんは、その、ゴリョウ、エジ? に参加するんですか」
斎「……」
さて、なんと説明しようか。Aに遠回しな説明は通用しない。
だからなのか、いつもAに対しては真っ直ぐな言い方で接していた。
斎「時間が経てば、変わるものもある。文化も、思想も。それは仕方のないことだ。だが俺はその中で、決して変わることのないものを信じている」
貴「……斎藤さんがいう変わらないものは、新選組とか、ゴリョウエジとかそういう具体的なものではないような気がします」
斎「そうだな。自分自身、その変わらないものが見つかったとは思っていない」
貴(探し続けているから、新選組を抜けるの?)
ますます分からなくなった。あれほど土方や近藤達について行っていた斎藤が。
それでも、分かるのは。
貴「もう会えないんですか」
このままだと斎藤と藤堂は遠いところへ行ってしまうということ。
何もかもが変わっていく。自身の環境も、新選組も。
だから斎藤は抜けたのだろうか。変わっていく新選組を。
斎「……A」
ソッとAの顔に手を添える。目を覆い隠す前髪を優しくはらった。
海の色。青色は見ると気分が落ち着く。
斎「綺麗だな、アンタは」
貴「は、え?」
突然のこと過ぎて、何を言われたのか一瞬理解できなかった。
綺麗? 何が?
急にどうしたというのか。
貴「特に深い意味はないですよね?」
斎「意味がなくこんなことを言うと思うか?」
この一言で全てが吹っ飛んだ。
貴(落ち着け多分私が思っているような意味じゃない。アレだ目の色が綺麗だとかそんなのだ小さい頃からずっと言われてたからね)
貴「あの、そろそろ手を離してもらえれば」
斎「嫌か?」
貴「本当にどうしちゃったんですか」
斎「冗談だ」
そういって斎藤は笑い、手を離す。
冗談というのは、どこからどこまで冗談なのか。なんだか誤魔化されたような気がする。
こんな風にからかうなど、斎藤らしくもない。
気づけばもう春だった。風に吹かれて散る桜の花びらが、ひらひらと力なく地面に落ちていく。
斎「A、これだけは約束してくれ。決して、自分から命を落とすような真似はしないと」
貴「……!」
少しは気にしていたのだろうか。記憶が戻ったAの事を。
貴「……約束します。だから、斎藤さんもどうかお元気で」
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作者名:ナッキ | 作成日時:2017年1月26日 20時