第七十七夜 蘇る記憶 ページ17
斎「……A？」
ただ宙を見るAの様子が変だと気づき、声をかける。
『せめておまえだけでも、逃げろ』
貴(これは、兄さんだ)
父はあの化け物に殺された。だが兄は、目の前で誰かに斬られた。
『――……次はおまえだ』
貴(違う……兄さんを殺したのは化け物じゃない)
『貴方達は、私の自慢の子供よ』
ああ。思い出した。思い出してしまった。次々と記憶が映像のように流れてくる。
貴(違う違う違う違う。これは嘘だ。こんな記憶、嘘だ)
斎「おい、A。しっかりしろ」
斎藤が強くAを揺さぶる。だがAは斎藤に目もくれず自分の手元を見る。
手は赤に染まっており、すぐ近くではあの化け物が死んでいた。
貴(……殺された。皆死んだ。誰もいない。死んでしまった)
貴「Pour refuser la(違う)。Ne jamais croire(絶対に信じない)」
斎「落ち着け。息をしろ」
呼吸が荒くなっていく。もはや頭が回らず目の前の景色も認識できないほど混乱に陥っていた。
斎「A！」
耳に衝撃が広がった。ようやくAは目の前に斎藤がいると気づく。
斎「俺の呼吸に合わせろ。ゆっくりでいい」
Aの手を斎藤の胸元に置く。スー、スーと規則正しい音が伝わってくる。
斎「そうだ。息をすることに集中しろ」
斎藤の言われた通り、何度かつっかえながらも呼吸を繰り返していくと気分が落ち着いてきた。
落ち着いた途端、ドッと疲労感があふれ出てきた。手は震えていて立ち上がることができない。
土「おい！ 何があった！」
騒ぎに気づいたのか、次々に人が集まってくる。
原「な、どうしたA！」
新「にしてもこの羅刹、おまえがやったのか、斎藤」
斎「……それよりも、まずはAを休ませるべきだ」
そう言うとすぐに斎藤はAを抱えた。いつもならすぐに降りると言うだろうが、心身共に疲れて果てているAにはもう何も言う気力が残っていなかった。
顔が血を抜かれたように青い。そんな状態のAに誰も彼も口を開くことができなかった。
土「……雪村の部屋の始末と、ここにいる羅刹の始末をしねぇとな」
永「そうだな。行くぞ左之」
沖「じゃあ僕と平助はこっちか」
藤「なんでいきなり羅刹が二体も脱走したのか」
山「もうしわけありません……私の監視が甘かったせいです」
藤「べ、別に山南さんが悪いとかじゃなくて……」
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作者名：ナッキ | 作成日時：2017年1月26日 20時
