第七十二夜 山吹の色 ページ12
違和感にはすぐに気づいた。
起き上がった所に積もった雪が、黒く染まっているのを見てAは一気に青ざめた。
貴(やばい……! 昨日染めたばっかりだった)
斎「……A」
斎藤もその異変にすぐ気づき、自分の襟巻きをAにかける。
雪合戦に夢中な四人を横目に二人は避難する。
斎「取れかけてるな」
グッショリと濡れた髪から黒い雫がポタリポタリと落ちていく。
貴「最悪だ……全部落としてまた染め直さないと」
斎「昨日の分で全部使い切ったと言っていたな」
今度こそAは撃沈した。もう為す術がない。
斎「……とりあえず、明日買ってくるから今日は我慢してくれ」
頭をブンブンと横に振って無理だと言う事を告げる。
斎「大丈夫だ。アンタの部屋に行く者は少ない。夕餉も部屋で食べたらいい」
貴(うう……斎藤さんにこれ以上迷惑をかけるわけにもいかないし)
渋々とうなずく。物陰に隠れてAは髪を洗い落とした。
髪染めが手に入るまでの一日は我慢しなければいけないなんて、苦痛でしかない。
土「平助ぇ!!」
貴(……今の声は)
遠く離れたはずの場所まで響き渡った土方の怒鳴り声。
もしここまで避難していなかったら自分も怒られていたのだろうか。
貴(……逃げてよかった)
斎「A、洗い終わったならすぐにかわか……」
貴「斎藤さん? あ、待って、見ないでください。恥ずかしい」
自分が今いつもの黒髪ではないことに気づいたAは両腕で頭を覆う。
何度か今の色は見たことはあるが常に黒色が混じっていたため、完全な金色を見たことはなかった。
斎「山吹の花の色だな」
貴「ヤマブキ……?」
斎「春に咲く花だ。アンタと同じ髪の色をしている」
それは知らなかった。フランスでも金色の花はある。
日本でもあるとは露ほど思わなかったが。
貴「行けるなら、行きたいです」
斎「ああ」
そう言って斎藤は手ぬぐいを渡す。
冷え切った空気に水という組み合わせは最強だ。
いつの間にかAの手は冷え切っていたらしい。
確かに少し手を動かすだけでも思うように動かない。
貴「ヤマブキ、か」
雪が溶けて、春が来る頃まで私は、ここにいるのだろうか。
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作者名:ナッキ | 作成日時:2017年1月26日 20時