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伊野尾side
「クソ……クソ、クソ、ッックソが！！！」
山田涼介との顔合わせから一晩が経った今日。今尚鎮火されることのない怒りを燃え滾らせ、私は雑誌撮影の為に用意された楽屋の机に拳を叩き付けていた。
あの男の共演者に向けるとは思えない失礼な態度、考えれば考えるほど胸の奥で煮詰まっていたイライラは質量を増し、そんな歯痒い感情に流されるまま、先より一層高く振りあげた真っ赤な右手は深い溜息と華奢な掌にそっと受け止められた。
「ったく、お前は思春期の男子中学生か。そんで痛くて余計腹立つんだからやめとけ。」
「……光は知らねーだろ、あいつまじヤバイやつだかんな！！」
「わかったわかった。話聞くから一旦水で冷やしてきなよ」
眉を下げながらシッシと手を払う彼女に促され、未だ胸に渦巻くモヤモヤを抱えたまま備え付けの水道の蛇口をひねった。
3人組アイドルグループ『Love Motion』。2年前から爆発的にブレイクしているこのグループで、センターを務めて9年目……そう、9年目なのだ。17歳でデビューしてから、今日までで私ももう26歳、他のメンバーも25歳と23歳で年齢的に見たら私はもう “アラサー” に片足突っ込んでいる状態。
『ああもう年齢的にも潮時かな』と何となく身の引き時を探っていた頃、どういう風の吹き回しか、今まで “諦めてます” と言わんばかりの顔をして私達には一切手をかけてこなかった事務所が、突然私達をどうにか大衆の目の届くところに置こうと奮闘し始めた。そしてその地道な努力が功を奏してか、私達は2年前の春、デビューから約7年目にして異例の大ブレイクを遂げたのだ。
そんな想定外の売り出しの結果があの山田涼介との共演なのだから、事務所としては大層喜ばしいことこの上ないだろう。
しかし、昨日のアレを目の当たりにしてしまった私からしてみれば到底ポジティブな感想は一ミリも出てこない。
「……大体何でうちら売り出したんだよ。もっと若い子いたじゃん。」
「なーに言ってんの。いのちゃんがクールビューティキャラやめて、茶髪のふわふわ美少女キャラにシフトチェンジした時の世間の反応凄かったじゃん。『あんな美少女いたか！？』『まさに芸能界の華だ！！』って。……覚えてるでしょ、不服そうな顔しちゃって。」
特徴的な八重歯をチラつかせて笑う彼女は、メンバーの八乙女光。25歳。緩りと巻いた鎖骨までの金髪は少し気の強さを感じさせるけど、実際は皆のオカン的立ち回りでしっかり者……なんて事はなく、最近増えてきたバラエティへの出演によってその天然さとお馬鹿加減がお茶の間を中心に露呈し始めてたりする。
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作者名：ひまちぃ | 作成日時：2023年3月2日 23時
