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彼はどうやらピンと来ていないようだ。
ただ、空気の変わった日高さんに少し怯えている。
「えっと、説明も無しに申し訳なかった。……A、君には弟がいる」
「……」
「10年ほど前に再婚して、弟はもうすぐ10歳だ」
「……」
「BE:FIRSTのファンで、姉がAだと知ったらとても喜ぶと思う」
「……」
「私はもう一度Aの父としてもやり直したい
……いずれ、時が来たら、私の家族に会ってみてはくれないだろ、」
「野替さんッ」
日高さんが遮るように声をあげたのを合図に、モモヨさんが席を立って私の肩を抱くように後ろから手を置いた。
悔しい。
こんな、
こんな人の前で
「っ、」
目にいっぱい溜めた水分が落ちないように、唇を噛み締めて瞳を閉じた。
(泣くもんか)
こんな事で心を削られたくない。
私の心と身体を擦り減らせても良いと思える物は、他にあるんだから。
(おねがい、)
強くなる力が欲しいと思ったときに、自然と思い浮かんだ2人の顔。
『 みづが居ないと、自分が自分じゃない 』
『 今のミヅキが本当に好きだよ 』
(私に力をちょうだい)
瞼をあげて顎を引く。
すうっと吸い込んだ息に、決心をつける。
ごめんなさい日高さん。
私は、この人とは向き合えないよ。
「野替さんが、私を娘だと思うのはお好きにしていただければ良いと思います」
「ただ私は、自分の父は “お星様になった” と聞かされて育ってきました」
「2人のその言葉に嘘は無いと思っています。今も、これからもずっと」
「だから、私に父はいません」
「私の家族は、5年前に亡くなった、母と兄だけです」
話すうちに、彼の顔色がみるみると変わっていく。
こう言われることを想像すらしていなかったのだろうか。
だとしたら随分と、能天気な人だな。
「…………A」
「はい」
「本当に、そう、思っているのか?」
「はい」
「っ、私は、君が生まれたときの事を知っている!雷が鳴る嵐の夜で、タクシーも中々捕まらない中、陣痛が始まった母さんに傘をさして病院まで連れて行ったのはこの俺だ!」
「……それがなに?私は覚えてない。
貴方なんて知らない」
鏡がなくても、自分がすごく冷たい顔をしていると分かる。冷え込むような声がして、それが自分のものだと自覚すると更に感情まで凍ってしまいそう。
必然にできた沈黙の中、目の前の人が「……愛してたんだ……」と呟いた。
誰を?母を?……私を?
今の貴方には、その疑問を投げかけることも出来ないほど、“愛”なんて程遠く見えてこないけれど。
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befirst(プロフ) - あらしのよるに大好きすぎてなんっっかいも読み返しています!! (11月27日 20時) (レス) id: 73aa1688da (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - masayo_8さん» 書き手の私、超無意識に寿司桶空っぽにしておりました!たしかに、変わらず食欲旺盛で可愛い笑 おばあちゃんもおばさんも、きっとママから旦那がどんな人なのかは聞いていなかったんですよね…まさに神(読み手)のみぞ知る事実なのです、悔しいことに。 (5月17日 22時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
masayo_8(プロフ) - なかなかの内容なのに、きっちり寿司桶を空っぽにするモンさんを、愛してやまないっ(◕દ◕)そういえば、おばあちゃんも、おばさんも、生きてるとは言ってなかったなぁと、解説を見て思いました!天才っ!! (5月17日 15時) (レス) @page50 id: be11c96dd8 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - まおさん» まおさんありがとうございます♡登場人物の気持ちが大きくなればなるほど、描写を書いては消して……この人こんなこと言わんよな、もっとらしい言葉はないかなと考えながら書いているので、そう言ってもらえて嬉しいです。 (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - とんトンさん» ネタバレ私は大歓迎ですよー♡笑 わー、見てくれてるって嬉しくなりますしね!リルアワとのリンクも楽しんでいただければ! (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白 | 作成日時:2023年4月7日 23時