【薄桜鬼】 君が好きだと伝えたい 【藤堂平助】

第３４幕 声に出せない ページ16

ーーー綺麗だと、そう思った。



薫と額を合わせて静かに涙を流しているAが。


俺には、この世の何よりも美しいものに見えた。



それと同時に、邪魔なんかとてもできない、息をするのすら躊躇われるような。

薫とAの二人の姿は、そんな神聖なものに見えたんだ。




いくな。いくな。

ずっと、俺のそばにいろ。

…薫じゃなくて、俺にしろ。

今度こそ、おれがおまえを守る。


ーーだから、いくな。


「っ……、」



言いたい事はたくさんあるのに。


何ひとつ言葉にならない。




俺は薫みたいに、好きという言葉すらも言えない。

前世からずっと、どうしようもないくらいAが好きなくせに。

Aに何も伝えられない、俺。



ーーまた、後悔するのか？


そう、頭の中で前世の俺が言う。



あの時。あの場所で。

Aに守られた事、Aを失った事、Aに好きだと…言えなかった事

すべて、死ぬほど後悔した。


それを、俺はまたくり返すのか。



どうしてもっと早く想いを伝えなかったのか。


そんな自問自答で、今世でもまた自分を責めるのか。



…けれど、ここにいる誰一人も、言葉を発することなんかできなかった。


この空気を、壊せなかったんだーーー


.


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第３５幕 別れし出逢い、また別れ→←第３３幕 涙のわけ

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