紅茶 ページ7
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「えっちょっと、」
「はい？まだ何か。」
空になったティーカップを残して立ち上がろうとすれば、一瞬にしてあの面持を崩した司令が、心底焦ったような声を出した。
ミスでもあっただろうか。
心配になりもう一度、席に座り直す。
いくら美味しかったからといっても、マカロンだけ全て食べてしまったのはさすがに行儀が悪かったかと、目の前の皿をみつめた。
「......、あ、いや。この後急ぎの用事でも？」
「しばらく後に樹状細胞さんから留守番を頼まれてはいるんですけれども。」
「それまで時間はあるだろう。座りたまえ。...丁度いい菓子が手にはいたって言うのに、付き合ってくれる人が居なくて困ってたんだ。」
「制御Tさんを呼んできては？」
「彼女が付き合ってくれると本気で思っているのかい。」
「あはは。」
では失礼します。一言声を掛ければ、また新しく紅茶を注ぎでくれた。
取り皿にラズベリーのムースを乗せてこちらに寄こしてくる。
鮮やかなマゼンタのそれを口に運ぶ。とっても、
「おいしいです。」
「それは良かった。」
彼はシンプルなチーズケーキを一口フォークにさして、上品に食す。
ケーキを食べるならアールグレイの方が合う気分だけれど、そんな注文の多い部下では煩わしいだろうかと飲み込んだ。
「ああそういえば。さっき班長さんに言われたんですけれどね。」
「キラーTくん？」
「ええ。私って昔と何か変わったでしょうか？」
特に表情とか、顔とか。
そう付け足せば、ああそういうことか。と何か納得したように呟いた。
「よく笑う様になったんじゃないかな。僕はそう思うよ。その班長さんとやらが何を言いたかったかは別としてね。」
「...そうでしょうか。」
「そうだとも。なんていうか、こっちに帰って来たばっかりの君は、全てが退屈そうな顔をしていたよ。」
退屈。
その単語を、反芻する。
「正直、少し心配ではあったんだ。君が体外へ行くことについてね。...何より前例がなかった。」
「でも成功しましたよ。私、今皆さんの役に立てている気がするんです。良くやってる。そういってもらえます。」
「その言葉は誰の物かな。」
「樹状細胞さんですよ。ははっ、私もいい加減彼離れが必要でしょうかね。」
素直に母親の言う事を聞く子どもの様だという自覚はあった。
自虐のつもりが少し恥ずかしくなって、髪を耳にかける。
そうか。
短くつぶやいた司令は、なんだか面白くなさそうな顔をしている。
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作者名：るーこ | 作成日時：2019年3月26日 1時
