150.溶解 ページ21
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つないだ手があったかくて、彼の隣はこんなにも心地良い。
泣いてばっか、そう言って鳴は反対の手で私の目元をふいてくれる。
『私で……いいの?』
「…なんで?」
『だって、私……去年の秋に……』
財布の中にまだ、持ち歩くみたいに入ってる、くしゃくしゃになった映画のチケット。
鳴が背中を押してくれた大事なもの。
『……私、すっごい甘えるよ?』
「………」
『きっと一也のこと考えてふらふらするし、すぐ泣くし、ヤキモチやくし、…結構めんどくさいよ?』
「んなこと知ってるっつの、何年の付き合いだと思ってんの」
『本当に、いいの…………?
めちゃめちゃ、嬉しいんだけど…』
ぼたぼたこぼれる涙をつないだ手と反対の手でふいた。
下を向いて唇をかむけど泣き止む気配なんかなくて、
どうしようもなく、私の心はいっぱいいっぱいで、
「お前さぁ、身を削るような恋愛しかしてないじゃん?文字通り身を粉にして」
鳴は笑う。
私を満たしてくれる笑顔で、こっちを見る。
「そろそろ俺と、幸せになっちゃおーよ」
スタジアムを見据えながら、笑って鳴は、
ドラマの中みたいなセリフを、言葉を、さらりと私によこしてくれて、
しんとしたスタジアムの中、ぼろぼろ泣く私の頭をぽんぽん撫でてくれて、
涙を拭くと、痛くなりかけた喉で声を絞り出す。
『…鳴、ありがとう。待っててくれて、ありがと』
泣きはらした、かっこ悪い私だけど、
『ずっとそばにいてください。
私、鳴になら一生尽くせる……ずっと、鳴のそばにいるよ』
その言葉に、鳴の目がくるんと丸くなって、にへらっと嬉しそうに、嬉しそうに笑って、
つないだ手を離して、2人でぎゅっと抱き合った。
頭一つ大きな彼の腕の中は、どうしようもなく心地よくて、
いとおしさに胸が苦しいくらいだった。
そのあと2人で乗った電車は、手をつないだ駅までの道は、
どうしようもなく、一瞬一瞬が、
嬉しくて嬉しくてたまらない、特別な時間だった。
鳴は、こんなに簡単に、私の心を溶かしてくれたの。
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作者名:すた | 作者ホームページ:
作成日時:2016年2月16日 17時