これを人は恋と呼ぶのだろうか【黛千尋】

Diary4 シンデレラなのか眠り姫なのかそれが問題。 ページ5

キィ、と屋上の扉を開ける。何時もなら遅いです、と抗議の声を上げる神崎の姿は無かった。確か今日は委員会の当番も何も無かったはずだ。もしかして、と思い給水塔の裏に回る。

上手いこと日陰になっているそこで神崎はくうくうと寝息を立てていた。まるで猫のように体を丸め、恐らく持ってきたのであろうひざ掛けが体にかかっている。

さらりとポニーテールに結われた髪に指を絡める。きちんと手入れされたサラサラの黒髪に引っかかることなく指は髪を滑った。

「……こんな無防備でいやがって。襲われても知らねえぞ」

大体こいつは己が異性にどれだけ人気があるかを知らないのだ。同級生だけではなく、上級生や下級生の中にも神崎に惚れている奴がいる。当人はそんなことは知らないらしいが。

そう言えば落し物を拾ったヤツが「このまま恋が始まんねえかな！シンデレラみたいにさ！」とか騒いでたのでイラついて休み時間のうちに勝手に返しに行っておいたこともあった。

「んん……黛さん、そのラノベはハズレですよ……それならこっちの方がおすすめです……」

むにゃむにゃと呟いているがこいつの夢の中でも俺はラノベを読んでいるのか。己のイメージが固定されていることを思わぬ形で知る。まあ神崎といる時の俺は大体ラノベを読んでいるからしょうがない。

神崎が起きる気配は依然として無い。まあ授業までに時間はあるし寝かせといてもいいだろう。隣に座って俺の肩に神崎の頭を乗せる。

そのままラノベを読み始めた俺に気づいて神崎が起きるまで後少し。眠り姫はキスで起きるというけれどこいつのキスは俺の存在かもしれないなんて自惚れたそんな昼休み。

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