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Diary3 ファインダー越しの世界は純粋で汚れてはいない。 ページ4

「黛さーん、写真撮っても良いですか?」

私と黛さんがこうして昼休みの屋上で話すようになって十ヶ月。とは言っても黛さんはずっと本を読んでいるけど。この人はいつもそうでさっさとお昼ご飯を食べて本を読み始めるのだ。悔しいけれど凄い絵になる。それがカバーに隠れた文庫本に見せかけたラノベなのだとしても。

身長は高いし薄灰の髪の毛は陽に透けてきらきらと光っている。青みがかかった薄灰は黛さんのイメージにぴったりだと思う。

正直反則ものだと思わないでもない。屋上で本を読むのが趣味の影薄毒舌青年とかどこのラノベのキャラだ。生憎私のラノベの趣味は黛さんとは合わない。私が好きなのは淡々と流れていくような話なのだ。起承転結が無いとかじゃなくて雰囲気の問題で。妹萌えとか私には分からない未知の領域だ。

「またかよ。勝手にしろ。お前の事だからネットとかには流さないんだろうし」

こちらを一瞥することも無くそう言い放つ黛さんもこの状況には慣れてしまったのかもしれない。毎週のように私はカメラを持って来ているのだから。でも心なしか冬休みが終わってからの黛さんの雰囲気は穏やかだ。それまでは少しばかり荒れていたのに。荒れた風が凪いだ風に変わるように変化したそれが私は好きだ。

許可を貰ったので遠慮なく撮る。ああ、やはり綺麗だ。一眼レフのファインダー越しに黛さんが写る。息を止めてシャッターを押す。パシャリという音が辺りに響いた。正直私は写真部に所属しているとはいえ人物はあまり撮らない。撮ろうと思わないのだ。黛さんだけは別だけど。

週に一度でも一ヶ月で四枚。それが十ヶ月分。そうして貯まっていった写真はアルバムの中に眠っている。使い道が分からないままに。後二ヶ月で会えなくなる。いっその事連絡先でも聞いてしまおうか。でもこの心地良い関係が崩れる気がして何も言えない。

こののんびりとした時間が、黛さんと過ごす時間が私は好きなのだ。壊したくない、壊れて欲しくない。後二ヶ月後には無くなってしまうというのに。ああ、私はなんという臆病者で怖がりなんだろう。

Diary4 シンデレラなのか眠り姫なのかそれが問題。→←Diary2 本の延滞ダメ、絶対。



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黛夕那(#・∀・#)(プロフ) - あの、初めの千尋saidで神崎葉月ってでたんですが… (2019年9月1日 12時) (レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
ゲスでゲス - かぁいい作品をありがとうございました・・・ (2018年8月26日 9時) (レス) id: ed4900357a (このIDを非表示/違反報告)
カコ - すごく可愛かった。キュンとした。素敵な作品をありがとう。 (2018年7月22日 21時) (レス) id: 87181eb08c (このIDを非表示/違反報告)
マリア - 続読めたいです (2017年9月26日 10時) (レス) id: 8569ec9184 (このIDを非表示/違反報告)
葉隠叶芽(プロフ) - 飛鳥さん» ありがとうございます!なるべく早く書き上げられるようにしますので楽しみに待っててください! (2017年7月7日 23時) (レス) id: 0edaa43e99 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:葉隠叶芽 | 作成日時:2017年3月23日 20時

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