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私の手を握った彼の後ろを歩く
無言が続いて、虫の声がよく聞こえる
草むらを歩き20分程
綺麗な川が流れる橋の下に辿り着いた
月が私達を照らす
鬱さんが私から手を離し「あの時と一緒やな」と口を開いた
彼の言葉に上を向く
『…鬱さん、これを』
みんなから貰ったプレゼントが入った袋から、1枚の手紙を差し出す
彼は少し驚いたがそれを受け取り、私の顔を見た
『記憶が無くなっても、物は無くならないと…信じて、ですけど』
「…ありがとう」
『お金無いから、本当に手紙だけですけど…私がいなくなったら読んでくださいね』
「……うん」
制服のスカートを少し上にあげて靴下を脱ぐ
バチャバチャと川の中に足を入れ、ひんやり冷たい水の方へ進んだ
どうせ戻ったら乾いているだろう
そんな簡単な気持ちで入ってしまったが、予想以上に冷たい
そういえば、ここに持ってきたもの全部…この川の中か
携帯も……戻った時に私の手元にあるといいが
帰ったら、大ちゃんになんて言おうか
ちゃんと別れを告げた方が、いいのか
「A、ちゃん」
『はい…?』
砂利の所にいた鬱さんが私の方に寄ってきて
高そうなスーツが水に濡れていくのがわかる
『え"!?』と驚いたが私の目の前に立ち止まった彼は「あの時」と呟き、私の頬に手を添え額同士をくっつけた
彼の目が閉じられ、長いまつ毛が少し震えていて
「あの時、言い忘れたことがあんねん」
キラリと月が光り、彼の目が開かれる
綺麗な藍色の目がキラキラとしていて
あぁ、なにか見た事あると思ったら……
彼に言いたい事全部話したはずだったのに
また、言わなきゃいけないことが出来てしまう
震えた彼の口から一つ一つ言葉が丁寧に出てくる
「あの日、守れなくて……ごめん」
『……あ、謝らないで下さいよ…それに、それはもう「あのな」は、はい』
涙の溜まった瞳に私が映された
少しだけ頬を染めた彼が、私の頬から手を離し
綺麗な涙が彼の頬を伝う
それを拭おうと差し伸べた指先が微かに消え始めていた
それを見て、もう時間が無いと気がついてしまう
どうしようと行き場の失った私の手を鬱さんが優しく掴み、フワリと笑った彼は
「俺、Aちゃんの事…」
「好きなんだ」
そう呟き、私の手をゆっくり離した
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美雨 - 小説で久しぶりに泣きました。最高の作品でした。大好きです。 (7月26日 18時) (レス) id: c21832273f (このIDを非表示/違反報告)
はーな(プロフ) - 読み終わったあと感動で胸が締め付けられました。神作に出会えてよかったです!! (2022年9月2日 19時) (レス) @page27 id: e031897919 (このIDを非表示/違反報告)
海 - 泣けた。やばいですよもう。 (2022年8月14日 21時) (レス) @page27 id: 5511dd41f6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆい - 感動してめちゃめちゃ泣いた.....しかもこの小説私の誕生日に作られてる、運命かな......... (2022年7月19日 21時) (レス) @page27 id: 4f57f42090 (このIDを非表示/違反報告)
あたり(プロフ) - 最近この界隈に戻ってきて転生と外せかのシリーズを読み返していたのですがこれは読んだことなかったなと気付き読み始めたら…感動しました……外せかはガチで泣きましたけどこの作品も相当良かった……なんで当時読まなかったのかが不思議です…ありがとうございました (2022年4月17日 12時) (レス) @page27 id: f83fcb16fe (このIDを非表示/違反報告)
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