* ページ49
嫌な汗が額を流れる。
首に当てられた刀の不気味で異様な冷たさ。身動きを取れない窮屈さに首を少し傾けると、背中に突き刺される「動くな、」という声。
気迫に迫った…というよりは、穏やかなソプラノボイス。声だけでは男女の区別がつかないくらい柔らかなその声を背に、俺は刀を添えられ続ける。
「お主は何者だ?」
「Aはどこや。お前の相手なんかしてる暇ないねん。Aの居場所を教えろ。」
ハッと息を飲む音が背後で聞こえた。
その動揺を表すように刀の位置がずれる。
「お前、杵築の……」
震えた声が聞こえたと同時に、首のひんやりとした感覚は消え去った。
自分の刀に手を添えたまま、ゆっくりと振り向くと、そこに立っていたのは長身で綺麗な白髪が印象的な男。
黒の袴に刻まれた金の糸の刺繍と彼の白髪が、暗闇によく映えた。
相手の胸ぐらを掴み、詰め寄る。
身長の差など感じないくらいにまで近づいた。
ストッパーなんて、だいぶ前に既に壊れていた。
「お前こそ何者や?Aをどこにやった」
「……栗花落真冬」
「栗花落…まさか、」
一週間ほど前に、Aとうらさんから聞いた苗字。
あの宣戦布告された夜がフラッシュバックする。
「Aの、実の兄だ」
言われてみれば確かに、殺気の裏に見受けられる優しい瞳が彼女に被る部分もないとはいえない。
「お前は、Aの敵か?味方か?
敵なら、…今この場で俺がぶっ倒す」
「味方だよ。今までも、これからも。」
ふんわりと笑うその笑顔が、どこかAに似ている気がしてならなかった。
と共に、自分よりもAのそばにいる期間が長いというのがひしひし伝わり、嫉妬感を覚えた。
「Aなら、僕の部屋で匿ってる。
この牢にはもう近づかない方がいい。Aがいなくなったことがバレたら、殺される。
誰だらろうと関係ない。Aを取り戻すためなら父上は何でもする」
その物腰柔らかな物言いに、気がつけば胸ぐらを掴む手から力が抜けていた。
「案内するよ」そう言われ、その手を離し彼のあとをついて行く。Aがこの先にいると思うと、とにかく早く彼女の元に行きたくて自然と足が早まる。
(早く、会いたい。)
自分のあまりの単純さにやれやれと自分で溜息をつきたくなった。
______________________
四面楚歌(しめんそか)
……意味 : まわりが敵や反対者ばかりで、味方のないこと。
.
962人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
透(プロフ) - 牡丹一華。@坂田家さん» はじめまして。ありがとうございます…!そのお言葉が一番の褒め言葉です( ; ; )ご期待に添えるよう執筆頑張りますね◎ぜひこれからも読んでくださると嬉しいです!よろしくお願い致します (2020年1月11日 8時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
牡丹一華。@坂田家 - 夜分遅くに失礼します。作品を読ませていただきました。この作品のページが進めば進むほどのめり込みました。続編も読ませていただきますね。 (2020年1月11日 4時) (レス) id: ca03128f9d (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - 舶(ハク)@月ノ山天文部さん» ありがとうございます!!書き方いろいろ工夫しながら書いてるので褒めてもらえてめちゃくちゃ嬉しいです(///)更新頑張りますね!これからもよろしくお願い致します!! (2019年5月16日 23時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - 誤字すみません……すごきではなくすごくです…… (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - お話すごく好きです!うらたさんかっこいい……更新楽しみに待っています、頑張ってください!あと書き方すごき上手くてとても読みやすいです(*´ω`*) (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:透 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2019年4月27日 0時