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気がつけば、暗い牢の中にいた。頬から伝わる冷たい床の感覚。横たわるようにして眠っていたようだった。
ゆっくりと体を起こすと、頭がくらりと一瞬ショートするような嫌な感じに襲われる。今朝自分でてきとうに結った髪はすっかり乱れていたため、簪を抜いて手ぐしで梳かした。
「目が覚めた?」
「真冬…!」
「しーっ」
牢の柵の向こうからひょっこりと顔を出したのは真冬だった。その顔には痛々しい傷跡。唇に人差し指をあてて、あの懐かしい顔で微笑んだ。
「ここどこなの?」
「…香流の城の牢。ごめん、守ってあげられなくて」
話を聞くところによると、私が訪ねた家の人が私の顔を"あの似顔絵"で見覚えがあったらしく寝ている間に捕まえられたらしい。
ぎゅっ…と心が痛くなった。
この世の中に父に捨てられ吉原の花魁となり、そして逃げ出したこんな女の居場所なんてないのはわかっていた。
けれどこうやって、目に見える形で世の人々から見放されるのはどうも私のメンタルでも辛いみたい。
「……また、」
「…?」
「また、吉原に戻される…?」
自分でも、どうしてこんなことを口にしたのか分からない。どうして、こんなに涙が止まらないのかも、何もわからない。
吉原に戻されるのが怖いのか、裏切る形で彼らの元を去ってしまうことになるのが怖いのか。何もわからないけれど、頬に滑る優しい指の感覚だけはしっかりと伝わる。
真冬の、柔らかくて優しい指が涙をそっと掬う。
牢を介してでも、真冬の温もりが伝わってくるのに安心しながら、どうすればいいか分からない悔しさに、今朝杵築で着せてもらった袴の裾を握った。
「大丈夫、僕が守ってあげる。けど、」
「けど…?」
「Aを匿おうとしたことが、城中にバレてる」
重い重い石を思いっきり頭に乗せられたくらいの衝撃とともにふらりと倒れそうになる。
"絶望的"それが今の自分たちに1番似合う言葉だろうか、と思うと力が抜けて前傾に体重を預ける。…皮肉にも、触れた手はひんやりと冷えていくような牢に身体を支えられる状態だが。
「真冬はどうなるの?」
「わかんないけど、父上が僕を手放すことは無いと思う。」
「僕強いから」と、満足気に笑う真冬。
その真冬らしさに懐かしさを覚える。
「どうにかしてAを助ける方法、探すから」
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再三再四(さいさんさいし)
……意味:何回も同じことを繰り返すこと。
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透(プロフ) - 牡丹一華。@坂田家さん» はじめまして。ありがとうございます…!そのお言葉が一番の褒め言葉です( ; ; )ご期待に添えるよう執筆頑張りますね◎ぜひこれからも読んでくださると嬉しいです!よろしくお願い致します (2020年1月11日 8時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
牡丹一華。@坂田家 - 夜分遅くに失礼します。作品を読ませていただきました。この作品のページが進めば進むほどのめり込みました。続編も読ませていただきますね。 (2020年1月11日 4時) (レス) id: ca03128f9d (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - 舶(ハク)@月ノ山天文部さん» ありがとうございます!!書き方いろいろ工夫しながら書いてるので褒めてもらえてめちゃくちゃ嬉しいです(///)更新頑張りますね!これからもよろしくお願い致します!! (2019年5月16日 23時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - 誤字すみません……すごきではなくすごくです…… (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - お話すごく好きです!うらたさんかっこいい……更新楽しみに待っています、頑張ってください!あと書き方すごき上手くてとても読みやすいです(*´ω`*) (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:透 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2019年4月27日 0時