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Aが昼食を食べ終わり、尾崎は口を開く。
「大切なことを教えるのを忘れておったな」
「大切なこと、ですか?」
「其方の名じゃよ。聞きたいじゃろう?」
「!もちろんです!!」
「其方の名は……中島 A。
「中島、A…」
それが、私の名前…と、Aは嬉しくなる。やっと自分の名前が分かった。ついでに年齢も知ることが出来た。Aは何度も、心の中で名前をリピートする。
「私は嬉しいぞ。やっと、其方を名で呼べるのじゃからのう」
「私も嬉しいです…。やっと、自分の名前を知れたんですから…」
尾崎は、Aが心の底から喜んでいるように見え、心底ほっとする。椅子から立ち上がり、Aの頭を撫でる。
「まだ分からんことが多いじゃろうが、気にする必要はないぞ。さっきも言ったが、Aをここから追い出したり、早く思い出せと焦らしたりせんからのう」
「ありがとうございます。紅葉さん」
「そうじゃ。後で中也が来る。その時は、拒否するでないぞ」
「し、しませんよ…。まだ少し怖いですが…」
尾崎は食器を持ち、また来ると言って出ていった。Aはゆっくり立ち上がり、窓に寄って外を見る。上層にいるからか、見える建物はどれも小さい。
ふと、姉さんと呼ばれたことを思い出す。
「……私には、弟がいるんだろうな。どこで何してるんだろう…。どんな子なのかな…」
その時、がちゃりと扉が開く音がする。振り向くと、中也が軽々と大きな何かを持っている。
「勝手に入ったことは怒るな。届けモンだ」
「怒りませんが…。届け物、ですか?」
中也が持っているのは、アンティーク風の茶色のドレッサーだ。音を立てずに部屋の奥の方に置く。
「紅葉姐さんが頼んだやつだ。中には姐さんが手前に似合うと思ったアクセサリーが入ってる。礼は言っとけよ」
「紅葉さん、とても優しい方ですね」
「手前みたいなやつには特に甘いんだ。姐さんは」
Aはドレッサーの前に立つ。埃一つ付いていない鏡に自分が映った。その時、違う人物が見えた気がした。映っているのは自分だが、別人に見えるのだ。その時、強い痛みがAを襲った。よろけるAを、中也が慌てて支える。
「おい!しっかりしろ!!」
「あ、あつ、し……」
そう呟いて、Aは目を閉じた。
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arena(プロフ) - あかりさん» 無言参加失礼しました…。読んでいただいて光栄です!ありがとうございます! (2018年1月29日 7時) (レス) id: eb7b6b7134 (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - イベント参加ありがとうございます! すごい面白いです これからも頑張って下さい! (2018年1月29日 2時) (レス) id: 59dc504c48 (このIDを非表示/違反報告)
arena(プロフ) - ちゅうや大好きさん» ありがとうございます! (2018年1月28日 13時) (レス) id: eb7b6b7134 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅうや大好き - すごく面白いです (2018年1月28日 12時) (レス) id: 2184bb70c3 (このIDを非表示/違反報告)
arena(プロフ) - 瑠李さん» ありがとうございます。自分の作品の内容を忘れてしまう馬鹿ですが頑張ります!笑 (2018年1月22日 0時) (レス) id: eb7b6b7134 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:arena | 作成日時:2018年1月11日 21時