Episode70 ページ33
船に戻った二人はアスタロトの言っていた言葉の意味を考える。
「…アスタロトは元々あんな奴じゃなかった」
「君は誰でもそういうな」
「もともと、誰も悪くないんだ…誰もがルシフェル様を信頼して…」
Aの言葉が途切れる。その腕は微かに震える。
「…誰も、悪くなかった訳ない。忘れちゃいけない…アイツだけは」
「アイツ…？」
Aは空を睨み付ける。
「パンデモニウムに、まだ幽閉されてる奴がいた…アイツを殺すまでは、終わらない」
「アイツ…あの黒衣の男か」
サンダルフォンの問いに、Aは答えない。しかし目線はパンデモニウムのある東を捉える。
「…しかし、指教の天司達で封印したのでは？」
「アイツは赤き地平から這い上がってきたやつだぞ。殺すまで終わらない」
「…」
湧き出た復讐の感情は消えない。唐突に怒り狂いだしたAに困惑する。
(まさか、天司長の力がなくなったせいか…？)
ふと、Aは歩き出す。そのあとについていくと、自室に入っていく。ベッドに向かったかと思うと、唐突に倒れこむ。
「A…！？」
「…フー…ッ…ハー…」
肩で息をするA。傍によると、ゆっくりと顔を上げる。
「…クソ…サンダルフォン…」
「なんだ」
「僕がここから出ていかないように見張っておけよ…」
「なっ…」
そのままベッドに丸まり、呼吸を続けるA。沸き上がった感情を抑えるためだと気づいたのは、すぐ後だった。
「…そこまで、憎いのか？」
「…」
「あの記憶にある光景…ルシフェル様の最期…その怒りを向ける相手を間違えるな」
「…ッ」
「黒衣の男は封じられた。今は…平和に過ごそう」
サンダルフォンはAの背をゆっくりとなでる。それと同時に、Aは落ち着きを取り戻していく。
「…ありがとう。落ち着いた」
ゆっくりと起き上がったAの顔は、疲労感であふれる。
「…まさか、まだ僕にあそこまで衝動があるなんて」
「自覚はあったのか？」
「…なきゃ、あんなにベリアルに感情むき出しで戦ったり、虚無に飲まれたりするかよ…サンダルフォン、復讐なんて二度と考えるなよ」
「君に言われたくはない」
「僕だから言うんだよ…何にもいいことないから…無駄に疲れるだけだ」
「…君の中で、まだ戦いは終わってないのか？」
サンダルフォンの問いにAはうなずく。
「きっと、自分の手で全て壊すまでは止まらない」
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作者名：御煉 | 作成日時：2019年4月7日 14時
