四割引のシール ページ7
□
「 あれ、福良、立華は? 」
「 あぁ、Aちゃんならもう帰ったよ。てか、あとは俺たちだけ 」
やけに静かだと思って顔をあげると、オフィスにはもう俺と福良しか居なかった。
福良の方ももう帰る準備は整っていて、夕暮れ時の空を見ながら、俺も荷物を纏める。
彼の元に駆け寄ると、部屋の電気がパチリと落とされる。
慣れたものだ。こうしてこいつと一緒にエントランスまで降りるのも。
「 河村も大変そうだね 」
「 そう思ってるならあいつなんとかしてくれる? 」
「 やだよ。めんどくさい 」
「 動画とはまるで別人だな。薄情者め 」
他愛もない話に花を咲かせつつ、到着したエレベーターに乗り込み、一階のボタンを押し込む。
動画での福良はふわふわした癒し系みたいなキャラだが、実際は面倒くさいことには極力首を突っ込みたくないタイプの人間だ。その点は俺に似ている。
けれど結局は世話焼きな性格に突き動かされてしまって、最終的には優しい人になるのだ。
その点は、俺とは似ても似つかない。
俺は極力面倒ごとに首を突っ込みたくないし、特に立華とかは面倒事の塊のような女だから嫌いだし、世話焼きな性格に突き動かされることもないから、あいつにお節介を焼こうとも思わない。
「 そんなに嫌なら本気で拒否れば? 」
「 お前にはあれが本気で拒否ってないように見えるの? 」
「 まぁ、確かに、河村にしては結構キツめだけど 」
切りの悪いところで、エレベーターが一階に到着する。
帰る方向が逆な彼とはその後マンションを出てすぐに別れ、俺は今日の晩御飯を買いにスーパーに向かった。
偶然とは嫌なもので、惣菜コーナーで見つけた後ろ姿に思わず「 げっ 」と顔が歪む。
「 あ、先輩奇遇ですね!!今日はあじフライがお買い得です!! 」
「 今日はサラダの気分だから良い 」
「 サラダならポテトサラダが安いです!なんと四割引!! 」
奴はこのスーパーの回し者かなにかなのか。
やけに総菜を買わせようとしてくるから仕方なく『 四割引 』のシールが貼られたポテトサラダを篭に入れる。
……福良が言っていたのは、こういうとこだろうか。
「 ここのお総菜全部美味しいんですよ!! 」
そう言って破顔するこいつは、やっぱり鬱陶しい。
悩みなんて無さそうな笑顔も、俺に会えただけでこんなにも幸せそうに出来るところも、全部。
□
193人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:朝田 | 作成日時:2021年2月26日 0時