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「A、どうだ、うまいか」

鬼舞辻無惨は媚びるような口調で言う。女は、ぺろぺろと手についた血を舐めながら、うん、と答えた。

「もしかして、外に出たくて媚びてます?」

そして窺うように上目遣いで鬼舞辻無惨を見た。媚びてる、という言いようは気に入らなかったが、文句をつけても詮無い。

「仕方ありませんね〜」

女は、クイと襟元を伸ばして頸筋を出すと、さあどうぞ、と言った。鬼舞辻無惨はその細い両肩を掴むと、牙を突き立てる。女のやわい頸の肌が、一瞬怯えるように波打って、そしてどくどくと血がこぼれ始める。鬼舞辻無惨は残らずそれを啜る。
ごく、ごく、と喉がなる。
女は意に介さない様子で、また再び死肉に食らいついた。

この女の血を啜れば、不思議と太陽に焼かれることがないと気づいたのは、百年ほど前のことだった。それはこの女の家系が、天照大御神を祀る神社の宮司筋だったことに由来するのだろうと鬼舞辻無惨は考えている。
それならばと、手元において定期的に啜れるようにしたのだが、どうにも女が「機嫌がいい」ときの血でなければ、効果が薄かった。殴りつけて組み敷いてかぶりついたところで、ほんの二、三歩外を歩くだけで、肌も髪の毛も燃え始める。猫かわいがりして、調子づかせた日などは、一方で昼日中歩き回っても平気だった。

そういう経緯で、この女は屋敷に大切に囲われている。暇を持て余して、死んだふりをして主人を驚かしてみたり、他の鬼にいやがらせをしたりしながら、それなりに楽しく暮らしている。

「無惨さま〜」

さて出かけよう、となったところで、中から女が声をかけた。女の血を飲んだ鬼舞辻無惨は昼にも外へ出られるが、女自身は決して太陽の光を浴びることはかなわない。

「かんざし買ってきてください、ちょっと西洋風のものがいいなあ」

鬼舞辻無惨は、それを聞いてまるで、父親みたいに頬を緩めた。明るいところに出れば、その姿はただの美丈夫で、とても人の血を啜っては千年の無為を貪る鬼には見えない。やや青ざめた肌色さえ、むしろ高貴であった。

「ああ」

鬼舞辻無惨は数歩戻って、しっかりと影に身をおさめる女の頭を撫でた。彼の腕の上で、きれいに陰と陽が分かたれている。

「無惨さま、外にお出でになると手が熱くていやね」

女は憎たらしいことを言いながらも、まんざらでもない様子で口角を上げる。



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(プロフ) - 言葉のセンスが凄く好きです!!無理せず更新頑張って下さい! (2020年6月26日 23時) (レス) id: 05ec690416 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - 星猫さん» どういう意図の質問か計りかねるので答えるのが難しいですが、知ってるアニメは、いろいろです…笑 (2020年6月23日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 知ってるアニメは何ですか? (2020年6月23日 18時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - マリイさん» あいわかりました〜方向性がご希望とズレてたらスミマセン・・・ (2020年6月23日 17時) (レス) id: 218c4f48c9 (このIDを非表示/違反報告)
マリイ - リクで無惨様が夢主を溺愛してる話と無惨様が夢主の信者みたいになって夢主の言う事だけは聞く話見たいです 無惨様は少量の血を飲むだけで良い日光克服してる設定で 2つ別で (2020年6月23日 14時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年6月23日 0時

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