18話 ページ18
生きた心地がしないとは、こういうことを言うのかと。
日が落ち、夜になり、夜半を過ぎ、滲むように朝が来る。
私は一睡もできずにいる。
ちゅんちゅんと、庭に毎朝訪れる雀が鳴いている。
私は座敷にじっと座り、家中の物音に耳を澄ませている。
杏寿郎さんや、その仲間の隊士が飛ばす烏の羽音や、誰かが玄関を開ける音を、全身を耳にして待っている。
座敷のすぐ横の厨には、すっかり乾いてダメになった握り飯がいくつも並んでいる。
昼が来て、換気窓から陽光が差し込み、握り飯の輪郭をやけにくっきりと強調させている。
乾いていく白米に、死を連想した。
私は足をもつれさせながら厨に駆け込み、慌てて握り飯を掴むと、乱暴に口に押し込む。
山ほど作ったそれを順番に胃袋に収める。
五つ、六つ、七つ、途中で堪えきれず吐き戻す。
***
物心ついたときから、炎に所以ある神職の家の長女として、煉獄の家に嫁ぐための教育を受けてきた。
煉獄の家は、いつ、何時、夫や子が惨たらしく死ぬともしれない特別な役務についている家系で、その妻になる私は失いたくないという情は捨て、とにかく夫と子を鋼のように精錬するのがさだめだと。
けれど、いざ杏寿郎さんの死を意識した途端、なんだ。このざまは。
私はなんとか自身を奮い立たせようとするが、冷え切った体は砂のように重く、その場にへたりこんだまま動けない。
手に握った握り飯が、ころんと落ちる。
「ーーーAさん、Aさん。」
どのくらい経ったろうか、ふと気づくとかすかに女性の声が聞こえる。
そして、ガラッと玄関の戸が開く音がした。
私は、弾かれたように立ち上がると、バタバタと玄関へ駆ける。
「Aさん、」
そこにいたのは、杏寿郎さんの母上だった。
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やも - 冨岡夢の作品を読んでこちらも拝見させてもらいました。やっぱり文章が綺麗に洗練されていてとても好きです!素敵な作品ありがとうございました。 (2020年5月7日 14時) (レス) id: be623916d5 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - Rさんさん» コメントありがとうございます〜!変な文章どころかありがたい文章です…今のところ続きは書いてなうのですが、書くことがあればこの小説にリンクでも貼ろうかなと思ってます! (2020年4月15日 21時) (レス) id: 218c4f48c9 (このIDを非表示/違反報告)
Rさん - 完結おめでとうございます!コメントするの初めてなのですが変な文章になってないでしょうか?とても感動しました!続きなどあれば是非教えて下さい!素敵な時間ありがとうございました (2020年4月15日 14時) (レス) id: f96fb724ca (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - 炎さん» 一気読みできるテンポを狙って書いていたので、コメントうれしいです、励みになります!読んでいただいてありがとうございました! (2020年3月30日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - ss好きの923chanさん» ありがとうございますー!読んでいただけて嬉しいです。また思いつけば短編でも書こうかなとは思ってます! (2020年3月30日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年3月27日 23時