【黒バス】気まぐれステップ～Summer～【赤司】 (ページ10)

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「黛先輩、駄目ですよ……？先輩はこの人達と違って常識人ですもんね。そうですよね？」

　茜が切羽詰った口調で黛さんに言う。黛さんは茜に優しい顔(但しいつもは朴念仁なので怖い)を向け、ゆっくりとした動作で首を下に傾けた。
　ほっとしたように胸元に手を当て息をついた茜は、「流石は先輩！」と目を輝かせて黛さんを見た後まるでゴミを見るような目で私、葉山さん、根武谷さんの方を一瞥し、「赤司君呼んできますね」と言って校舎の方に歩いて行った。

「……さて」

　茜の姿が見えなくなり、実渕さんに言われ渋々掃除を再開した直後、最後まで優しい顔(怖い)で茜を見送っていた黛さんが小さく呟いた。
それは本当に小さく、尚且つ低い声だったので、近くにいた私にしか聞こえていないのだろう。
一番深いプールの真ん中でホースを振り回し水遊びしている葉山さんらは全く気付いていない。
黛さんの周りを囲む、ドス黒いオーラに。
　一足早く気づいた私は猛スピードで向こう側のプールサイドに渡った。
後ろからジョーズの例のBGMのように、バケツの内側を叩く水の音が聞こえてくる。
とてつもない水流なのだろう。バケツが悲鳴を上げている。
蛇口を捻り、勢いよく流れだす水を只々一心に見つめる黛さんは、今どんな顔をしているのだろう。
見て見たいけれど、顔を覗くために戻ったらバッドエンドな気がする。

「あら、どうしたの。そんなに慌てて」

　漸く実渕さんのいる向こう側に辿り着き、膝に手を当て肩で息をしながら呼吸を整えようとした時だった。
　後ろから男二人分の野太い悲鳴が聞こえた。

「ちょっ、ちょっと！」

　プール側を見て悲鳴とも笑い声ともとれる声をあげる実渕さんとは対称的に、プール側に背中を向け目を瞑る。

「無防備だぞ水野！」

　滅多にお目にかかれない黛さんの怒鳴り声に背中を押されたかのように、大量の生温い水が背中にぶつかり前のめりになった。背後で聞こえる約四人程の笑い声に、むっと唇を尖らせる。
　実渕さんからホースを奪い取り、先端を親指と人差し指で強く握る。
ホースから出てくる水の勢いが増す。それを実渕さんに向けた。

「ちょっと！みっちゃん！？」

　水は実渕さんの顔にかかる。実渕さんは手を顔の前に持って来てのけぞった。
その拍子に長い前髪から水滴が四方に飛び散る。

「あははっ。玲央姉ザマー……って俺も！？」

　此方を指さして笑う葉山さんにホースの先端を向けると葉山さんがひっくり返った。