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そういえば黛さんがいないということに今更気付く。
なんとなくいないなーとは思ってはいたのだが、いつもの影の薄さで風景に同化してしまっているのだと思いあまり深く考えていなかった。
茜の後ろ姿を見送りながらシャーペンで頬をつついていると、「変なあとがつくわよ」と実渕さんにシャーペンを取り上げられた。
「……なんか、茜って凄いですよね」
「何よ、今更」
「いやいつも凄いんですけどね。改めて思っただけです」
それだけです、と付け加えてシャーペンを奪い返し、再び問題集と睨めっこを再開する。
実渕さんの「素直じゃないわねえ」発言はスルーだ。
が早速問題につまずき、眉根を寄せて唸っていると、前から伸びてきた指が眉間を軽く__ではなく、デコピン並の威力でつついた。
あまりの強さに顔がのけ反る。
眉間の頭蓋骨は大丈夫だろうかと手で触って確かめる。
うん、大丈夫なようだ。
安心したところで、私は眼前の男を睨み付ける。
「乙女の顔を傷つけるなんて最低です」
「それぐらいどうってことないだろう」
赤司君はどこ吹く風といった顔で返してきた。
「あら、そんなことないわよ征ちゃん。
肌って意外と弱いんだから」
と、思わぬ形で実渕さんが加勢してきた。
美容の話になると赤司君にも歯向かうとは、やはり実渕さんは女子の鑑だ。
「玲央、これが肌を気にする女に見えるか?」
「ちょっと、これ扱いしないで下さいよっ!」
ドンッと机を叩いて立ち上がった時だった。
後ろでなにか重い物が倒れたような大きな音がして、机から振動が伝わってきた。
赤司君が目を見開いている。
私と実渕さんは同時に振り向いた。
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