第十二話「梅雨時パニック」 ページ3
しとしとしとしと、足音を立てずに雨が舞を踊っていた。
日がな一日中舞を踊れることにささやかな喜びと感謝を込めてひっそりとひっそりと踊っている。
私は梅雨が好きだ。じめりとしたあの空気の重さや髪の量が二割増したような感じは嫌だけれど、意外とこの季節の雨が好きだった。
夏の雨は存在感を主張し過ぎ、秋と冬の雨は冷た過ぎ。
それに比べ、菜種梅雨からこの春の締めくくりを担う雨は控え目だ。
毎年この雨音をBGMに一人静かに読書をすることが、6月の小さな喜びだった。
「だった」。そう、その喜びは今年を持って終了を迎えてしまった。
「お勉強会」という名の元に。
「ねー、見て見てー!!紙飛行機、上手でしょっ!」
焦点の合っていない双眸は葉山さんの飛ばした白い紙飛行機を追った。
紙飛行機は不安定ながらも室内を横切って行く。
しかしそれは本棚の群の方に行く前に白い手によって捉えられた。
あ〜あ、と心底残念そうな顔をした葉山さんだったが、その目が紙飛行機を持った人の顔を移すとひっと固まった。
私の隣で実渕さんがシャーペンをくるくると回しながら「馬鹿ねぇ〜」と呟いている。
「確かに素晴らしい出来栄えだな」
赤司君は右手に持った紙飛行機を弄びながら爽やかな笑顔を向けてくる。
私はノートに「魔王の微笑み=死」と書き込んだ。
「だが時と場合を考えるんだな……まあ、紙飛行機の出来栄えに敬意を示し問題集を二倍にしてやる」
そう言ってもう片方の手に乗っけていた問題集を机に置いた。
どん、と分厚さを強調する効果音がする。
途方に暮れた顔で増えた問題集を見つめる葉山さんを横目に先程の式の下に「魔王>猫」と書き込んだ。
「自業自得だな、葉山」
がははと笑った根武谷さんに室内にある全ての冷たい目が向けられた。
根武谷さんの脇には葉山さんの分の比ではない量の問題集が積み上げられている。
私は密かに「根武谷さん、問題集でつみきの町を作る」と書き込んだ。
それから少し間をおいて、下に「だからなんで図書室で勉強会なんだ」と書き込む。
「お前が逃げ出すからだろ」
返ってくるはずのない答えが後ろからした。
後ろを振り向いた途端、問答無用で丸めたノートが頭上に落ちた。
「星がちかちか瞬いて見える、ミエルヨ」
「精神に異常をきたしているな」
「気持ち悪い」
赤司と茜、二人に撃墜されむくれながら落書きを消した。
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